逃げる彼女に甘い彼 ~my sweetheart~
その途端、心臓が鷲掴みにされたような感覚。
見つからないように、近くのコンビニへ思わず入った。
二人は別れ、きっと桐生課長は会社に戻るんだろう。
仕事中に、何してるの。
仕事のフリして、女性と会っていたのだろうか。
それとも仕事関係者とそういう仲なのだろうか。

そういう人がいるなら、なぜ私と休日デートなんてするの?
やっぱり九条の娘だから?私は思わぬことに利用されようとしているの?
信頼していた上司だと思っていたのに。
途端に何かが崩れていくような気がした。

自分だってウソをついているんだから、私にとって何でもない桐生課長を責める
資格はないことぐらいわかってる。
でも、裏切られたような気がした。
この気持ちはなんなんだろう。

デートの時の彼の屈託のない笑顔が浮かんだ。



タクシーで帰宅し、シャワーを浴びて先程の風景を搔き消したかった。
シャワーと一緒に、悔しさなのか悲しさなのか分からない涙が流れた。
リビングに戻ると、先日もらった手長ザルのぬいぐるみ。
あんなに可愛かったのに、憎らしく思える。
感情の動きについて行けず、お酒で気をまぎらわせた。


昔を思い出していた。
嫌な過去。
大学生の時、告白されて付き合った。二つ上の先輩。
大人になった気がした。
勿論、九条の娘だと知っていたけど、そんなの関係ないって、芽衣だから好きなんだといってくれた。凄く嬉しくて、幸せの絶頂だった。
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