懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~

   *


 私、宮内(みやうち)綾乃(あやの)は母子家庭で育った。
 生まれたときから父はおらず、今日までずーっと母と子のふたり。私が東京で就職したので今は離れて暮らしているものの、連絡はまめに取っているし、二カ月に一度は会っている。

 家庭事情を人に説明するとよく「大変だったね」と言われるけれど、当事者としては特に大変だったという意識はない。それは唯一の家族だった母親が飛びぬけて明るく楽しい人で、いつも私を楽しませてくれていたからだ。

 さっき匂宮のお嬢さまに話した魔女の話も母が言い出したこと。
 保育園に通うようになって〝どうして私にはお父さんがいないんだろう?〟と気にし始めた私に、母は神妙な顔で言った。

『綾乃。よく聞いて。これは誰にも秘密なんだけど……』

『お母さんね……実は魔女なの。自分ひとりの体だけで子どもが産めちゃうの!』

 それを聞かされたときの私(※園児)の衝撃たるや。

 自分のお母さんが魔女!?
 魔女って、日曜日の朝にやってるあのアニメ番組の主人公の仲間でしょう?
 それがまさかこんなに近くにいたなんて!

『だから綾乃も、ほんとは人間じゃなくて魔女なのよ』

 しかも私も!?

『とっても特別な存在なんだから。でも、このことは誰にも秘密ね?』
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