懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~

 けれど私はそういう行為に余裕で臨めるほど、経験豊富なわけでも、度胸があるわけでもなかったので。

(社長が相手か……)

 もしかして適任なのでは……と考え始めた私がいた。

 そこそこ長い付き合いではあるけれど、家族というほどべったりした関係でもない。

 程よく距離を保っていて、個人的にはいい関係だと思っている。

 身元もはっきりしているし、性格がいいのも知っているからそういう面での不安もない。

 仕事上、表に出すことはなかったものの、ぶっちゃけ男性的な魅力も感じていたりする。

 見ず知らずの人を相手にするのに比べれば 、百万倍くらいの安心感がある。

 その上彼は女性に不自由しないだろうから、跡継ぎの問題になることもないはずだ。後になって親権を主張してくる可能性も薄い。

 そしてさっきのあの発言。じっくりねっとり愛せる自信がある、と。
 ……ねっとり、っていうのがちょっと気にはなるけど。
 じっくり、という言葉は、丁寧に扱ってもらえそうな期待を私に抱かせる。
 乱暴にされることはなさそうだ。

「さっきの名久井社長……余裕そうだったもんなぁ……」

 腰が抜けて動けないでいる私とは大違い。
 きっとこんなこと、彼からしたら慣れっこなんだろう。
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