懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
「私だって、あなたにお仕えするつもりはありませんでした!」
「……はあ?」
よくよく話を聞けば、宮内綾乃は俺の伯母でもある前社長・名久井杏子の秘書になるつもりでうちの秘書に志願したのだという。
働く女性をクローズアップするテレビ番組で名久井杏子の存在を知った宮内はその働き方に憧れ、ちょうど同じタイミングで名久井ホールディングスの社長秘書募集の求人を見つけて迷わず応募したのだと。――間もなく社長交代のタイミングであるとも知らずに。
ちなみに宮内の目的の人である名久井杏子はこのとき、〝やっと任が解けた!〟と喜び勇んで海外バカンスを楽しんでいるところだった。おかげで俺は彼女に鬼電をして引継ぎを受けては鬱陶しそうに通話を切られる……ということを繰り返していた。
「残念だったな。きみが秘書をするつもりだった名久井杏子はもうこの会社にいない」
すでに知っていたであろう事実をあらためて突きつけると、宮内は唇を真一文字に結んでキッと俺のことを見た。
(……またこの目だ)