懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~

「きみは名久井杏子の秘書を希望してきたんだろう?」
「ですが、採用面接のときはどなたに付くかのお話はありませんでした」

 隣の光太郎に目配せする。光太郎は能天気に〝そうだね!〟と目で肯定してきた。
 いやそこは説明しておけよ。コンセンサスとれよ。大事な秘書の面接なのにガバガバすぎるだろ。忙しさにかまけて自分で会わなかった俺も悪いけどさ……。

 これじゃあ、この小娘の言い分が全面的に正しいということになるじゃないか。

 宮内綾乃は自身の胸に手を当て、さらに凛々しい顔になってこう啖呵を切った。

「使えないかどうかは、私の仕事ぶりを見てから判断なさってください」
「……ふん」

 この時点ですでに、俺の中で彼女の好感度はかなり上がっていた。

 ただの気の強い女というわけではない。
 膝の上に載せているもう片方の手はよく見ると震えていたし、威勢のいいことを言った顔にもどこか不安が見て取れた。普段はこんな風に人にたてついたりしないんだろう。

 廊下で俺が〝小娘〟と切って捨てようとしたのが聞こえてよっぽど悔しかったのか、こうやって食らいついてきて。

 意地のある奴は、どちらかといえば好きだった。
< 27 / 48 >

この作品をシェア

pagetop