懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
「きみは名久井杏子の秘書を希望してきたんだろう?」
「ですが、採用面接のときはどなたに付くかのお話はありませんでした」
隣の光太郎に目配せする。光太郎は能天気に〝そうだね!〟と目で肯定してきた。
いやそこは説明しておけよ。コンセンサスとれよ。大事な秘書の面接なのにガバガバすぎるだろ。忙しさにかまけて自分で会わなかった俺も悪いけどさ……。
これじゃあ、この小娘の言い分が全面的に正しいということになるじゃないか。
宮内綾乃は自身の胸に手を当て、さらに凛々しい顔になってこう啖呵を切った。
「使えないかどうかは、私の仕事ぶりを見てから判断なさってください」
「……ふん」
この時点ですでに、俺の中で彼女の好感度はかなり上がっていた。
ただの気の強い女というわけではない。
膝の上に載せているもう片方の手はよく見ると震えていたし、威勢のいいことを言った顔にもどこか不安が見て取れた。普段はこんな風に人にたてついたりしないんだろう。
廊下で俺が〝小娘〟と切って捨てようとしたのが聞こえてよっぽど悔しかったのか、こうやって食らいついてきて。
意地のある奴は、どちらかといえば好きだった。