懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
ぶんぶんと首を大きく縦に振って、その日の夜は興奮のあまり眠れなかった。
どうして私にはお父さんがいないのか、なんて疑問が吹っ飛ぶほどワクワクする話を聞き、目の前がチカチカ輝き始めていた。
自分がそんなに特別な存在だったなんて。私は特別な家庭に生まれた、特別な女の子。
それからは誰に何を言われたって少しも気にならなかった。劣等感も寂しさもない。私は私と母だけが知っている特別な秘密を大事に抱え、ひそかな優越感を持って生きていた。
見える世界がガラッと変わるほど、母の話は魅力的だったのだ。
*
「自分は魔女だって信じたものだからもう大変ですよ。変な自信がついちゃって。小学校の運動会とか、普段めちゃくちゃ足遅いくせに〝魔女だからここぞというときにはきっと!〟なんて思い込んでリレーに立候補して……」
「はあ……あの、宮内さん」
「はい?」
「私、やっぱり今日はお暇しますね」
「え……そうですか? 名久井社長もそのうちお戻りになると思いますけど……」
「大丈夫です。こうして宮内さんにお気を遣わせてしまうのも申し訳ないですし」
「そんな、私でよければいくらでもお話を……」
「もうけっこうですので!」