懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
「匂宮様、ちょっと強引ですからね……。お帰りいただくのも難しかったんだと思いますよ。ここまでいらっしゃったときも、不在とお伝えしたって〝戻られるまで待ちます!〟と息巻いておいででしたし」
「そういえば宮内。お前最後のほう引き留めようとしてたな。あれはどういうことだ」
「あれは――一度始めた話は、最後まで聞いていただきたいじゃないですか。なんとなく」
そう。先ほどまで私に課せられていたミッションは、居留守を使う名久井社長に代わって匂宮様の対応をし、ご機嫌を損ねることなく早々にお引き取りいただくことだった。
名久井社長は顔がいい。地位がある上に美形なものだから女性からのアプローチも絶えず、先ほどの匂宮のご令嬢のように邪険にできない相手も少なくない。
だから私のこの役目も日常茶飯事。
そして早々にお引き取りいただくコツは、簡単だ。私の個人的な話をすればいい。
人は自分の興味のない話を、延々とは聞いていられないものだから。
(でもあんな風に切り上げられるとちょっと傷つく……)
それが狙いだったくせに〝傷つく〟とは勝手な話だと思うけど。でも話していることは実話なわけですし。私、作り話は苦手ですし……。