懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
ミッションをクリアできたものの微妙にモヤモヤが残る私に、名久井社長は愉快そうに話しかけてくる。
「さっきの魔女の話は初耳だし、なかなか興味深かったぞ。よければ続けてくれ」
「嫌です。匂宮様にもお帰りいただいたんですから、ちゃんと仕事してください」
「リレーの結果は惨敗だったのか?」
質問されてたじろぐ。
しっかり聞き耳を立てていたんですね……。
私と匂宮様がお茶をしている間、名久井社長は同室のパーティションの裏で決裁書類のチェックをしていた。
……ほんとにチェックしていたんだろうか?
質問を無視もできず、当時のことを思い出しながら答える。
「……お母さんが見てる! って張り切っちゃって、ぶっちぎりの一位です」
「普段は遅かったのに?」
「だから余計、大きくなるまで本気で〝自分は魔女だ〟って信じてしまったんですよ」
母親が絡むと、私は尋常じゃないくらいのパワーを発揮した。それはべつに私が魔女だからではなくて、〝母にいいところを見せたい〟〝喜ばせたい〟と子どもながらに願った結果だった。
大人になって私は、〝母だけは本当に魔女なのでは〟と、今も彼女を偉大に思っている。
女手ひとつで私をここまで育ててくれたことも然り。