懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
「この話はもう終わりです。社長、決裁書類のチェック終わりましたか?」
「終わってる。漏れがないか一応見てから持ってってくれるか」
(終わってるんだ……)
給湯室に持っていこうとしていたティーセットを一度テーブルに置き直し、社長のもとへ歩み寄って書類を受け取る。――つもりが、私が両手で受け取ろうとすると、なかなか社長が書類を離してくれずに引っ張り合う形になる。
「ん……? えっ、なんですか」
「宮内。通常の秘書業務に加えて、女性関係までお前に対応してもらっているのは正直申し訳なく思っている」
「あ……へぇ……?」
話が予想外の方向に転がり、つい間の抜けた返事をしてしまった。
社長椅子に座ったままの社長と見つめ合う。
涼しげな目に、若干上目遣いになるこの角度で見つめられるのは今に始まったことじゃない。
いちいちドキドキしたりも、もうない。
だけど普段とは違う〝何か〟も、確かに感じていた。
名久井社長は口角を上げ、優雅に微笑む。
「いつもの詫びも兼ねて、優秀な秘書にご褒美をやろう。何がいい?」
「えっ……」
突然の提案にフリーズしてしまった。
両者、掴んでいる決裁書類を間に挟んだまま。
私は眉根を寄せ、思ったままを口に出した。