懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
「何も……思いつきません」
「つまらないことを言うな。どんなものでもいい。三ツ星レストランのディナーでも、お前が気負わないなら光り物でもいい。なんだって買ってやる」
「そんなこと言われましても……欲しいものは特に……」
「お前は本当に欲がないんだな」

 呆れた顔をされても困る。
 だって、突然〝欲しいもの〟だなんて言われても……。

 一瞬頭に浮かんだのは、新しい炊飯器。この間テレビで見たやつは、炊き上がるお米の美味しさが全然違うのだと説明していた。でもそれを「欲しいです」と社長にお願いするのは、何か違うような気がする。

 次に浮かんだのは今しがた飲んでいた紅茶の茶葉。
 母に飲ませてあげたいと思って、自分で買ったらいくらくらいするんだろう?と考えていた。

 でもそれも、なんとなく「自分で買え」と言われてしまいそう。

(ええと……)

 これはどうしたものか。

 名久井社長に書類を掴む力を緩める気配はない。
 呆れはしても、あきらめる様子がない。
 今ここで私に欲しいものを言わせるまで頑として動かない姿勢だ。

 こういうところがちょっと子どもっぽくて頑固で困る。
 私もたいがい頑固なほうだと思うけど、一度、根比べをしてそれだけで日が暮れそうになったことがあるから、張り合うのは得策ではないと知っている。
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