懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
 ここは何か社長が満足する答えを出して、業務に戻っていただくべき。

(でも私の欲しいものって何……?)

 こういうとき、作り話が得意ならよかったのにと思う。
 何か気の利いた返事ができればスムーズに進むものを、私は自分に関することは実話しか語れない。〝嘘がつけない〟と言えば聞こえはいいが、単純に機転が利かないのだ。

 今回も〝欲しいもの〟を絞り出して真面目に答えるしかない。

「宮内。焦らなくていいからよく考えてみろ」
「んん……っ」

 そんなこと言って、今結論を出させるつもりのくせに。
 優しい目で「焦らなくていい」って言われたって見つめ続けられれば焦りもするでしょ。そういうところですよ! 惚れられやすいのは!
 自分の表情や振る舞いにどれだけ破壊力があるのかを理解してない。天然タラシ。

 でもそこがいい。

「なんでもいいぞ。ほんとは何かあるだろ?」
「ええと……」
「念のため言っておくが、俺が満足する答えをわざわざ探さないように。俺はお前が本当に欲しいものを訊いてるんだ」
「ううっ……」

 しかも心を読まれている……!

 もともと嘘のつけない私はなおさら誠実に答えなければいけない気がして、つい自分の本心に思いを馳せてしまった。

 実はひとつだけある。ずっとずっと心の底から欲しいと思っているものが。
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