君の彼女にはなれないや……
高校1年生の春。
私はある人に一目惚れをした。話した事もない人なのに、ビビッときたんだ。
私はアタックしてみようと思い、高校1年の夏彼に告白した。
「好きです!付き合って下さい」
少女マンガでありがちの台詞を言った。どうせ振られると思いながら返事を待っていると、「いいよ。これからよろしくね」と言う返事が返ってきた。
有り得ない、話した事もない人と付き合えるの!?
自分から告白しといて、何言ってんだよ。と思いながらも、「えっ……ほんとに?」と聞いてみた。
「うん。実は俺も一目惚れしたんだ。君に。」と言った。
まさか、彼も私に一目惚れしてたんだと思った。
凄い偶然のようで奇跡だ。この時、今までで1番嬉しいかった。
それから高校を卒業し、私達は一緒に暮らす事になった。
私のわがままだったが彼も良いよと言ってくれた。
高校生活以外では彼と一度もあった事もないし、二人っきりになるのも初めてだ。こんなの彼カノと言っていいか分からないけど、彼が嫌なら私も嫌。
彼が嫌がる事はなるべくしたくない。
でも……
流石に付き合って4年にもなるカップルがハグも手も繋がないって……。
キスなんて出来るはずないでしょ。
彼から来ない限り私は負けた気がする……
でも、一度でいいから彼に触れたい。龍に触れたいよ……
そうだ!触れるだけなら……大丈夫だよね。
私は龍が座ってるソファーに座った。龍は少しだけ座ってる位置からズレた。
別にズレるほどじゃないのに……。少し悲しくなった。
雰囲気に任せ、こっそりと手に触れてみる。
すると、「ッ!!な、やめろッ……!」と龍が声をあげた。
触れただけで、こんなに嫌がれるなんて……。
結構ショックだ。
「ご、ごめん……当たっただけだよ……。」少しがっかりしたように言うと龍も、「俺もごめん……でかい声出して……。でも、俺には触れてほしくない。」ときっぱり言われてしまった。触れたいと言う感情をこれからも抑えないといけない。そう思うだけで苦しくなる。
なんで触れちゃだめなの?
私、彼女だよ?
そう思ったが、声には出さなかった。出せなかった。出したら彼を傷つけてしまうんじゃ無いかと思ってしまう。
あぁ、弱いな。こんなんでへこたれてちゃ……。
でも、特別な事したいよ。
だって、彼女だから。
夜、最近龍の帰りが遅い。
仕事、残って残業してるのかなぁなんて思いつつも、晩ごはんの支度をする。
龍が帰って来るかもしれない。毎日そう思っているが、一度も帰って来たことが無い。それでも彼を信じたいと思ってしまう自分が馬鹿だ。
帰って来るはずないのにね。
私は、リビングで仕事をしながらいつも彼を待っている。しかし、いつも寝てしまうため彼の顔を見る事は出来ない。
それでも晩ごはんをラップで包み、締め切り前の原稿の横に置いておく。
どうせ、捨ててしまうのに……
勿体ないな。
でも、彼のために作ってしまう。
朝、目を覚ますと布団が掛かってあった。
こういう所を気遣ってくれる龍が好きだ。ほんとに優しいと思う。
ありがとう。
隣を見ると昨日作った晩ごはんが残ってあった。やっぱり食べられてない。
そんな事毎日なのに、日に日に辛く感じる。
辛いなら止めれば良いのに。そう思うでしょう?私だって思うよ。でもさ……
好きな人のためなら作りたいんだよ。
もしもって思ってしまうから……
私は、眠い目を擦りキッチンへ向かった。
晩ごはんは食べてもらえなくても、朝ごはんとお弁当は食べて欲しい。
そう思いながら、お弁当を作る。
お弁当を食べて美味しかったよ。と言ってお弁当箱を戻して欲しい。
でも……そんな事もう叶わないよ……
叶うはずないのに……
期待してしまう……
ははっ、馬鹿だなぁ私。もう無理だよ……。
最近、彼の下着が臭う。
なんでだろう?と思っていると、白い液体が乾いているのを発見した。
もしかしたら、浮気されてる……。そう思った。
最近帰りが遅いのも、浮気してるからなんじゃ無いかと疑ってしまう。
彼に恨みや怒りの感情が沸かない。
だって、浮気されるのは私に魅力がないってことでしょう?
浮気相手の人の方が、私より良い人ってことだよね?
だから浮気されるんだ。飽きられるんだ。
私と居るより、浮気相手と一緒に居て龍が楽しいなら、
別れる覚悟は出来てる……。
だって、それで龍が幸せになれるなら私なんか消えてしまえば良い。
私のお願いで付き合う事が出来たんだもん。私に引き止める権利は無いよ。
でもね……やっぱり寂しいよ……。
この感情を彼に知られないように必死で隠した。
彼の前では笑顔で居ようと決めた。
どんなに辛い事があってもこの笑顔だけは貼り付けていなきゃ……。
泣きたくても、苦しくても、彼の前では……
笑顔でいなきゃ……。
心配かけたく無い。彼の前では泣きたくない。
こんな弱い自分をさらけ出したくない。
弱い奴は嫌われるから……。
少しでも……振り向いてほしいんだよ……。
お願い……神様……。
もう少しだけ、龍の傍に居させて下さい……。
ある日の夜、友達から写真が送られてきた。
スマホに映し出されている写真を見ると、龍と会社の上司(男)と思われるふたりが、ホテルに入って行くところが写っていた。
友達が言うには、龍はもしかしたらゲイなのかもしれないとのことだ。
私は、情報が多く呑み込むのに時間がかかった。
でも、確かに龍はゲイなのかもしれない。
だって手に触れただけであんな反応するのはおかしい。
あの頃は、ただ触ってほしくなかっただけだとばかり思っていたが、この写真を見てみると龍と会社の上司である人物が手を繋いでいる。
私が触れただけで怒った癖に、この人が触れるのはいいんだ。
結構ショックだ。
確かにゲイの人は女性が苦手らしい。
でも、彼女にしてくれたじゃん。
それなのに……。
やっぱり私は彼に似合う存在じゃなかったんだ。
ごめん……。
告白、断りづらかったからおっけーしてくれたんだよね。
ほんとごめん……。
全部、私のせいだよね……。
ごめんなさい……龍……。
友達は私を心配してくれた。私の代わりに怒ってくれた。だけど私は、怒りというより苦しさや複雑さの方が大きかった。
どれだけ頑張ったって私は彼の彼女にはなれない。
偽りの彼女のままなんだ。
辛いな。
苦しいな。
泣きたいよ……。
どれだけ我慢しようと涙が勝手に溢れてくる。
スマホの画面上に私の涙がポタポタと溢れた。
きっと彼には私の辛さが分かる筈ない。
分かろうともしてない。
それでいいんだ。その方が私も嬉しい。
彼の前で泣くと、彼の人生を縛ってしまう事になる。そんなの嫌だよ。
きっと彼だって必死に生きている。
私にゲイと隠しながら生きているんだ。
龍だって、自分の事隠しながら生活するのは辛い筈だ。
それでも私の前では普通に接してくれている。
だから私もそうしなくちゃ。
大丈夫。いつも通り演じればいい。
いつもの笑顔を貼り付けて……。
あぁ、最近よく寝れてないな。締め切り前だからって事もあるけどやっぱり……
龍の事を思い出すと落ち着かない。
思い出したくないのに、何故か私の頭には龍でいっぱいなんだ。
特別な事もされてないのにね。
大好きなのにな……。
君がゲイってこと知ってから何故か上手く笑えないよ……。
君が悪い訳じゃないのに……。
心の中で君を攻めてしまう私が居るんだ。
同性愛は悪い事じゃないのに。
なんでだろう。
私を愛してくれないの?とばかり……
思ってしまうんだ。
ほんとにごめん……。
こんな醜い奴で……。
あぁ、私が死んだら……
きっと龍は幸せなんだろうな……。
ある日の夜、龍は珍しく早い時間に帰宅した。
私は意識が朦朧とする中、龍に「おかえりなさい」と言った。
私の顔を見た龍は驚いている。
「お前……どうしたんだ……?」
あぁこれか。そうだよね、最近会ってなかったもんね。同じ家にいるのに。
「最近寝れなくて……。化粧する暇も無くてさ……。あはは、醜いよね……。」
私は作り笑いをし、龍の方を見た。
最近、ネガティブになりがちだ。だって、生きてるのが辛いから。自分が嫌いだからさ……。
生きたいっていう感情が湧かなくなってきたし、リスカも増えた。
でも、死ぬのが怖くて……。
死ねなかった……。
龍はそれから何も言わない。私は、疑問に思った事を彼に尋ねた。
「今日は早いね。どうしたの?」
龍は「話したい事があるんだ。」と答えた。
ついにきたか。私は予想がついた。
きっとあれだろう。
すると龍が口を開いた。
「俺たち、もう……別れよう。」
分かってた。分かってたけど……
やっぱり……
辛い……。
「俺、好きな人ができたんだ。」と言った。
知ってる、知ってるよ……。
そんな事……。
「知ってるよ……。そんな事……。
龍がゲイって事ぐらい……。」
震えてる。身体も声も。
龍、驚いているな……。そうだよね、彼女にそんな事知られてるなんて思ってもなかったよね……。
すると龍がまた口を開いた。
「知ってたのか!?じゃあなんでお前から別れようって言って来ないんだよ!!なんだ!?俺がゲイって事嘲笑って生活してたのか!?」
と怒り始めた。
「違っ……!?」
ガンッ
何かに殴られた。頬が痛い……熱い……。
「違う訳ねぇーだろ!?普通だったら彼氏がゲイって事知ってたら別れるだろ!?なのにお前は俺を嘲笑ってたよな!?ずっと笑ってて気色悪いんだよ!!……早く出てけよ……。ここは俺の家だ。お前が居る意味はもうない……。」
と言って龍はそっぽを向いた。
あぁもうこれで最後か……。分かってたから書き置きはして置いたけど、見てくれるかな……?
私の思いを……。
私はふらふらしながら、自分の部屋へ戻り荷物を片付けようとした。その時、私の視界が大きく揺れた。目まいだ。あぁ、倒れる……。ここから出ないと行けないのに……。
そう思いながら私は意識を手放した。
数時間後、龍は優の部屋から物音がしない事を疑問に感じ、優の部屋へと向かった。
扉を開けると、床に倒れている優の姿があった。
「!?……おいっ!!優!!起きろ!!」
そう言っても彼女が起きる気配は一向に感じない。
しかし、優は「ごめんなさい……ごめんなさい……龍……。」と泣きながら言っていた。
龍はその言葉を聞くと、「謝んなよ……。」と言い彼女を抱きかかえ、119番に電話した。
机の上に置いてあった手紙をもち、病院へと向かった。
病名は
疲労とストレス。あと女性ホルモンのオキシトシンの分泌が出来ていなかったのが原因らしい。
オキシトシンとは通称幸せホルモン。
スキンシップや家族とのコミュニケーションで活性化するらしい。
しかし優の場合、彼氏である俺と一度もスキンシップをしていない。それも俺から拒否したから優も近づいて来なくなった。
それに彼女は両親を亡くしているため、コミュニケーションをとることが出来ていなかった。俺もずっと優の顔を見ていなかったので、それも原因の一つだ。
ベットで眠っている優が綺麗だった。心拍数は少し弱いが死には至らないと医者は言っていた。しかし、俺が触れたら、簡単に彼女を殺してしまいそうで怖かった。
優が目覚めるまで、机の上に置いてあった手紙を読むことにした。
龍へ
きっとこれを読んでいると言うことは、私達は別れたのでしょう。
ここに書くことは私の思いです。
決して実らないと思ってた恋なのに、龍の一言で人生が変わったような気がします。あの時はほんとに嬉しくて……。嬉しすぎて爆発しそうでした。
でも、何年経っても龍から私に抱きついてきたり手を繋いで来ることはありませんでした。
一度龍に触れた事があったでしょう?あの時、当たっただけだって言ったけどホントは、触れたかったんだ。
触れた瞬間龍は声をあげたよね。覚えてる?
あの時さショックで何も言えなかった。
龍に触れたいって思いをこれからもずっと抑えないといけないと思うと辛くて……。
彼女なのにどうして?って思ったの。
その時はまだ龍のほんとの事実を知らなかったから、あぁ触られるの苦手なんだなぁって思ってずっと我慢してたの。
龍と手繋ぎたかったな。龍とハグしたかったな。
私一人で勝手な夢見て憧れて……。
ほんとの馬鹿だよね。わかってる。でもさ、一度でいいから彼女らしいこと、彼女だから出来ることしてみたかった。今言っても遅いのに……。
龍がゲイだって知ったのは、友達が龍と会社の上司の人が二人で手を繋ぎながらホテルに入って行く写真が送られて来てから知ったんだ。
その時何も考えられなくなった。龍が男の人を好き?どういう事?
ずっとそんな事が頭の中でグルグル回ってて。
突然涙が出てきた。龍が悪い訳じゃないないのに。自分が悪いのに。
何故か龍を責めてしまう自分がいた。
同性愛は悪い事じゃないのに。私の方を見てくれない龍が嫌になっていた。
どれだけ手を伸ばしても龍には届かない。
もう私はあなたの彼女じゃないんだなって思ったの。偽りの彼女だった。
辛かった。苦しかった。
でもあなたを憎む事は無かったの。不思議だよね。
私が悪いって思ってしまうの。
自分に魅力が無いから、振り向いてくれないんだとか、自分が弱いから駄目なんだとか。そういうことばかり考えて、自分を傷つけてた。
それでも龍の前では自然で居ようと思って、ずっと笑顔を貼り付けてた。
龍の前では強く居よう、龍の前では絶対泣かない、って決めてた。だけどさ、やっぱり弱い自分が出てきちゃうよ。
龍だって私にゲイって事隠しながら、生活して辛かったよね?
私の告白断りづらかったから……いいよって言ってくれたんだよね。
全部全部私が悪い。あなたを振り回してた私が悪い。
同居だって私が我儘言ったせいで龍を傷つけた。
ほんとにごめん……。
どれだけ謝っても切りがない。
それほど私はあなたを傷つけたと思う。
こんな弱い彼女でごめんね…。こんな醜い彼女でごめんね…。こんな我儘な彼女でごめん……。
私、龍と付き合えて良かった。ほんとに良かった。
私に幸せな時間をくれてありがとう。
もう龍とは会えなくなると思うとほんとに悲しい。
龍は私が初めて好きになった人だよ。
あなたの笑顔が大好きで、あなたの見えないところで頑張る姿が大好きで、あなたの優しいところが大好き。
私、彼女らしいことしてあげられなくてごめんね…。
あぁ、龍の彼女になれて良かった。
私、幸せものだなぁ。
今までありがとう。
大好きだよ。これからもずっと……。
さようなら、大好きな人。
優
そう書かれてあった。
俺は、手紙を読んでる間ずっと泣いていた。涙で文字が滲んで汚くなっている。
俺、全然優の気持ち気づいてあげられなかった。こんな事思ってたなんてな。
俺、最低だ。なんで優と付き合ったのか分かんねぇ。
優はずっと謝っていた。ごめんね…って。
もう謝んなよ。悪いのは俺の方だ。どれだけ優を一人にしたか、どれだけ苦しめたか……。辛いのはお前なのに。
それでも俺を庇うのかよ……。
お前のその優しさに俺は甘えてたのかもしれない。
優なら大丈夫って、ずっと思ってた。
バレたら別れればいい。って簡単に思ってた自分が情けない。
優は俺のためにずっと言わないでいてくれた。
それなのに俺、嘲笑ってただなんて。
優がそんな事するはずないのに。なんで決めつけたりしたんだよ。それで彼女をこんなにさせたんだろ。優には両親がいないから俺が守ってやんないと行けなかったのに、なんで逃げてるんだよ。
俺は、弱いよ。
お前は弱くなんかない。俺と向き合ってくれてたじゃん。
逃げないで居てくれた。それが弱いなんて間違ってる。
俺の方が弱い。お前から逃げてたんだ。
気づかれるのが嫌で。それでお前に冷たく当たって。自分の弱さをお前に押し付けてたんだぞ?
優は俺の前では一度泣かなかった。それが俺にとって嬉しかったりした。最低だよな。
優は泣くのを必死に我慢して俺の前では笑顔で居てくれた。それがどんなに辛いか……。俺だって分かるのに……。気づいてあげられなかった。
ごめん……
ほんとにごめん……。
俺、お前に謝りたい。
きっとお前は俺の事嫌いになったよな?
それでも、お前にしてきた事全部謝りたいんだ。謝って済む話しじゃ無いことぐらい分かってる。
でも、お前が笑ってる姿がもう一度見たい。
今度は作り笑いじゃなくて。
お前が心から笑ってる姿が。
そうだ。
そうか。
俺は、お前の笑顔に一目惚れしたんだ。
「なぁ……頼むから目覚めてくれよぉ……。」
涙が優の手に落ちる。
必死に優の手を握った。
触れる事が出来なかった優の手を強く。
「優……。優……。」
ここは何処?私、何してるの?
今、私は不思議な空間にいる。すべてが白い。すると突然、私の目の前に死んだ筈のお母さんが出てきた。
「お母さん……!」
「優……。」
お母さんの声を聞くと自然と涙が出てきた。
「お母さん、私死んじゃうのかな?……私は早くお母さんのところへ行きたいよ……。もうやだよ。」
「優……、まだ来ちゃ駄目よ。」
「なんでッ……!?私は……!」そう言いかけるとお母さんが私の頬を撫でこう言った。
「優には、大切な人がいるでしょう?よーく、耳を澄ませてごらん。」そう言うとお母さんは消えてしまった。
耳を澄ます?何言ってるの?
だけど、お母さんの言葉信じてみよう。そう思い耳を澄ませた。
すると、「優……。優……。」と聞こえてきた。
この声は龍だ。龍が私の名前を呼んでる。
目覚めなきゃ。
そう思い私は、現実の世界へと戻った。
「リュ…ウ……。」
「優……!?」
「私の名前呼んでくれてありがとう。」そう言い私は、ニコッと彼に笑顔を向けた。彼は泣いていた。それに私の手を握っている。
ほんとに心配してくれたんだ。彼女じゃないのに……。
そう思っていると、龍が私を抱き寄せた。
「ごめん……。ほんとごめん……!お前にどれだけ辛い思いさせたか……。俺彼氏失格だよなぁ……。」
龍はそう言って私の胸に顔を埋めた。彼の声は震えている。
泣いていたのだ。
「そんな事無いよ。私の方こそ彼女らしいことしてあげられなかった。……私龍が居てくれただけで幸せだったよ?」そう言うとニコッと笑った。
大好きな彼が私を抱き締めてくれているだけで生きてて良かったって思う。
「良かった……。優ごめんな、もう絶対お前に無理なんてさせないから。辛い思いさせない。
だからさ、もう無理に笑わないで良いよ。」
あぁ、バレてたんだな。龍の言葉を聞いた瞬間涙が出てきた。
「優。泣くなら俺の前だけにしてくれ……。絶対、離れたりしないから。……俺にこんな事言う権利はないけどさ、……もう一度、俺の傍に居てください。」
龍の目からは涙が溢れてる。
ほんとに嬉しい。私が思ってる以上に龍は暖かくて優しい。
返事は……「はいっ。」そう言うしかないよ。
ありがとう。お母さん。
私、死ななくて良かった。
こんなに幸せな事もうないよ。
私、あなたの彼女になれたかなぁ……?
幸せ過ぎて分かんないや!
Fin
私はある人に一目惚れをした。話した事もない人なのに、ビビッときたんだ。
私はアタックしてみようと思い、高校1年の夏彼に告白した。
「好きです!付き合って下さい」
少女マンガでありがちの台詞を言った。どうせ振られると思いながら返事を待っていると、「いいよ。これからよろしくね」と言う返事が返ってきた。
有り得ない、話した事もない人と付き合えるの!?
自分から告白しといて、何言ってんだよ。と思いながらも、「えっ……ほんとに?」と聞いてみた。
「うん。実は俺も一目惚れしたんだ。君に。」と言った。
まさか、彼も私に一目惚れしてたんだと思った。
凄い偶然のようで奇跡だ。この時、今までで1番嬉しいかった。
それから高校を卒業し、私達は一緒に暮らす事になった。
私のわがままだったが彼も良いよと言ってくれた。
高校生活以外では彼と一度もあった事もないし、二人っきりになるのも初めてだ。こんなの彼カノと言っていいか分からないけど、彼が嫌なら私も嫌。
彼が嫌がる事はなるべくしたくない。
でも……
流石に付き合って4年にもなるカップルがハグも手も繋がないって……。
キスなんて出来るはずないでしょ。
彼から来ない限り私は負けた気がする……
でも、一度でいいから彼に触れたい。龍に触れたいよ……
そうだ!触れるだけなら……大丈夫だよね。
私は龍が座ってるソファーに座った。龍は少しだけ座ってる位置からズレた。
別にズレるほどじゃないのに……。少し悲しくなった。
雰囲気に任せ、こっそりと手に触れてみる。
すると、「ッ!!な、やめろッ……!」と龍が声をあげた。
触れただけで、こんなに嫌がれるなんて……。
結構ショックだ。
「ご、ごめん……当たっただけだよ……。」少しがっかりしたように言うと龍も、「俺もごめん……でかい声出して……。でも、俺には触れてほしくない。」ときっぱり言われてしまった。触れたいと言う感情をこれからも抑えないといけない。そう思うだけで苦しくなる。
なんで触れちゃだめなの?
私、彼女だよ?
そう思ったが、声には出さなかった。出せなかった。出したら彼を傷つけてしまうんじゃ無いかと思ってしまう。
あぁ、弱いな。こんなんでへこたれてちゃ……。
でも、特別な事したいよ。
だって、彼女だから。
夜、最近龍の帰りが遅い。
仕事、残って残業してるのかなぁなんて思いつつも、晩ごはんの支度をする。
龍が帰って来るかもしれない。毎日そう思っているが、一度も帰って来たことが無い。それでも彼を信じたいと思ってしまう自分が馬鹿だ。
帰って来るはずないのにね。
私は、リビングで仕事をしながらいつも彼を待っている。しかし、いつも寝てしまうため彼の顔を見る事は出来ない。
それでも晩ごはんをラップで包み、締め切り前の原稿の横に置いておく。
どうせ、捨ててしまうのに……
勿体ないな。
でも、彼のために作ってしまう。
朝、目を覚ますと布団が掛かってあった。
こういう所を気遣ってくれる龍が好きだ。ほんとに優しいと思う。
ありがとう。
隣を見ると昨日作った晩ごはんが残ってあった。やっぱり食べられてない。
そんな事毎日なのに、日に日に辛く感じる。
辛いなら止めれば良いのに。そう思うでしょう?私だって思うよ。でもさ……
好きな人のためなら作りたいんだよ。
もしもって思ってしまうから……
私は、眠い目を擦りキッチンへ向かった。
晩ごはんは食べてもらえなくても、朝ごはんとお弁当は食べて欲しい。
そう思いながら、お弁当を作る。
お弁当を食べて美味しかったよ。と言ってお弁当箱を戻して欲しい。
でも……そんな事もう叶わないよ……
叶うはずないのに……
期待してしまう……
ははっ、馬鹿だなぁ私。もう無理だよ……。
最近、彼の下着が臭う。
なんでだろう?と思っていると、白い液体が乾いているのを発見した。
もしかしたら、浮気されてる……。そう思った。
最近帰りが遅いのも、浮気してるからなんじゃ無いかと疑ってしまう。
彼に恨みや怒りの感情が沸かない。
だって、浮気されるのは私に魅力がないってことでしょう?
浮気相手の人の方が、私より良い人ってことだよね?
だから浮気されるんだ。飽きられるんだ。
私と居るより、浮気相手と一緒に居て龍が楽しいなら、
別れる覚悟は出来てる……。
だって、それで龍が幸せになれるなら私なんか消えてしまえば良い。
私のお願いで付き合う事が出来たんだもん。私に引き止める権利は無いよ。
でもね……やっぱり寂しいよ……。
この感情を彼に知られないように必死で隠した。
彼の前では笑顔で居ようと決めた。
どんなに辛い事があってもこの笑顔だけは貼り付けていなきゃ……。
泣きたくても、苦しくても、彼の前では……
笑顔でいなきゃ……。
心配かけたく無い。彼の前では泣きたくない。
こんな弱い自分をさらけ出したくない。
弱い奴は嫌われるから……。
少しでも……振り向いてほしいんだよ……。
お願い……神様……。
もう少しだけ、龍の傍に居させて下さい……。
ある日の夜、友達から写真が送られてきた。
スマホに映し出されている写真を見ると、龍と会社の上司(男)と思われるふたりが、ホテルに入って行くところが写っていた。
友達が言うには、龍はもしかしたらゲイなのかもしれないとのことだ。
私は、情報が多く呑み込むのに時間がかかった。
でも、確かに龍はゲイなのかもしれない。
だって手に触れただけであんな反応するのはおかしい。
あの頃は、ただ触ってほしくなかっただけだとばかり思っていたが、この写真を見てみると龍と会社の上司である人物が手を繋いでいる。
私が触れただけで怒った癖に、この人が触れるのはいいんだ。
結構ショックだ。
確かにゲイの人は女性が苦手らしい。
でも、彼女にしてくれたじゃん。
それなのに……。
やっぱり私は彼に似合う存在じゃなかったんだ。
ごめん……。
告白、断りづらかったからおっけーしてくれたんだよね。
ほんとごめん……。
全部、私のせいだよね……。
ごめんなさい……龍……。
友達は私を心配してくれた。私の代わりに怒ってくれた。だけど私は、怒りというより苦しさや複雑さの方が大きかった。
どれだけ頑張ったって私は彼の彼女にはなれない。
偽りの彼女のままなんだ。
辛いな。
苦しいな。
泣きたいよ……。
どれだけ我慢しようと涙が勝手に溢れてくる。
スマホの画面上に私の涙がポタポタと溢れた。
きっと彼には私の辛さが分かる筈ない。
分かろうともしてない。
それでいいんだ。その方が私も嬉しい。
彼の前で泣くと、彼の人生を縛ってしまう事になる。そんなの嫌だよ。
きっと彼だって必死に生きている。
私にゲイと隠しながら生きているんだ。
龍だって、自分の事隠しながら生活するのは辛い筈だ。
それでも私の前では普通に接してくれている。
だから私もそうしなくちゃ。
大丈夫。いつも通り演じればいい。
いつもの笑顔を貼り付けて……。
あぁ、最近よく寝れてないな。締め切り前だからって事もあるけどやっぱり……
龍の事を思い出すと落ち着かない。
思い出したくないのに、何故か私の頭には龍でいっぱいなんだ。
特別な事もされてないのにね。
大好きなのにな……。
君がゲイってこと知ってから何故か上手く笑えないよ……。
君が悪い訳じゃないのに……。
心の中で君を攻めてしまう私が居るんだ。
同性愛は悪い事じゃないのに。
なんでだろう。
私を愛してくれないの?とばかり……
思ってしまうんだ。
ほんとにごめん……。
こんな醜い奴で……。
あぁ、私が死んだら……
きっと龍は幸せなんだろうな……。
ある日の夜、龍は珍しく早い時間に帰宅した。
私は意識が朦朧とする中、龍に「おかえりなさい」と言った。
私の顔を見た龍は驚いている。
「お前……どうしたんだ……?」
あぁこれか。そうだよね、最近会ってなかったもんね。同じ家にいるのに。
「最近寝れなくて……。化粧する暇も無くてさ……。あはは、醜いよね……。」
私は作り笑いをし、龍の方を見た。
最近、ネガティブになりがちだ。だって、生きてるのが辛いから。自分が嫌いだからさ……。
生きたいっていう感情が湧かなくなってきたし、リスカも増えた。
でも、死ぬのが怖くて……。
死ねなかった……。
龍はそれから何も言わない。私は、疑問に思った事を彼に尋ねた。
「今日は早いね。どうしたの?」
龍は「話したい事があるんだ。」と答えた。
ついにきたか。私は予想がついた。
きっとあれだろう。
すると龍が口を開いた。
「俺たち、もう……別れよう。」
分かってた。分かってたけど……
やっぱり……
辛い……。
「俺、好きな人ができたんだ。」と言った。
知ってる、知ってるよ……。
そんな事……。
「知ってるよ……。そんな事……。
龍がゲイって事ぐらい……。」
震えてる。身体も声も。
龍、驚いているな……。そうだよね、彼女にそんな事知られてるなんて思ってもなかったよね……。
すると龍がまた口を開いた。
「知ってたのか!?じゃあなんでお前から別れようって言って来ないんだよ!!なんだ!?俺がゲイって事嘲笑って生活してたのか!?」
と怒り始めた。
「違っ……!?」
ガンッ
何かに殴られた。頬が痛い……熱い……。
「違う訳ねぇーだろ!?普通だったら彼氏がゲイって事知ってたら別れるだろ!?なのにお前は俺を嘲笑ってたよな!?ずっと笑ってて気色悪いんだよ!!……早く出てけよ……。ここは俺の家だ。お前が居る意味はもうない……。」
と言って龍はそっぽを向いた。
あぁもうこれで最後か……。分かってたから書き置きはして置いたけど、見てくれるかな……?
私の思いを……。
私はふらふらしながら、自分の部屋へ戻り荷物を片付けようとした。その時、私の視界が大きく揺れた。目まいだ。あぁ、倒れる……。ここから出ないと行けないのに……。
そう思いながら私は意識を手放した。
数時間後、龍は優の部屋から物音がしない事を疑問に感じ、優の部屋へと向かった。
扉を開けると、床に倒れている優の姿があった。
「!?……おいっ!!優!!起きろ!!」
そう言っても彼女が起きる気配は一向に感じない。
しかし、優は「ごめんなさい……ごめんなさい……龍……。」と泣きながら言っていた。
龍はその言葉を聞くと、「謝んなよ……。」と言い彼女を抱きかかえ、119番に電話した。
机の上に置いてあった手紙をもち、病院へと向かった。
病名は
疲労とストレス。あと女性ホルモンのオキシトシンの分泌が出来ていなかったのが原因らしい。
オキシトシンとは通称幸せホルモン。
スキンシップや家族とのコミュニケーションで活性化するらしい。
しかし優の場合、彼氏である俺と一度もスキンシップをしていない。それも俺から拒否したから優も近づいて来なくなった。
それに彼女は両親を亡くしているため、コミュニケーションをとることが出来ていなかった。俺もずっと優の顔を見ていなかったので、それも原因の一つだ。
ベットで眠っている優が綺麗だった。心拍数は少し弱いが死には至らないと医者は言っていた。しかし、俺が触れたら、簡単に彼女を殺してしまいそうで怖かった。
優が目覚めるまで、机の上に置いてあった手紙を読むことにした。
龍へ
きっとこれを読んでいると言うことは、私達は別れたのでしょう。
ここに書くことは私の思いです。
決して実らないと思ってた恋なのに、龍の一言で人生が変わったような気がします。あの時はほんとに嬉しくて……。嬉しすぎて爆発しそうでした。
でも、何年経っても龍から私に抱きついてきたり手を繋いで来ることはありませんでした。
一度龍に触れた事があったでしょう?あの時、当たっただけだって言ったけどホントは、触れたかったんだ。
触れた瞬間龍は声をあげたよね。覚えてる?
あの時さショックで何も言えなかった。
龍に触れたいって思いをこれからもずっと抑えないといけないと思うと辛くて……。
彼女なのにどうして?って思ったの。
その時はまだ龍のほんとの事実を知らなかったから、あぁ触られるの苦手なんだなぁって思ってずっと我慢してたの。
龍と手繋ぎたかったな。龍とハグしたかったな。
私一人で勝手な夢見て憧れて……。
ほんとの馬鹿だよね。わかってる。でもさ、一度でいいから彼女らしいこと、彼女だから出来ることしてみたかった。今言っても遅いのに……。
龍がゲイだって知ったのは、友達が龍と会社の上司の人が二人で手を繋ぎながらホテルに入って行く写真が送られて来てから知ったんだ。
その時何も考えられなくなった。龍が男の人を好き?どういう事?
ずっとそんな事が頭の中でグルグル回ってて。
突然涙が出てきた。龍が悪い訳じゃないないのに。自分が悪いのに。
何故か龍を責めてしまう自分がいた。
同性愛は悪い事じゃないのに。私の方を見てくれない龍が嫌になっていた。
どれだけ手を伸ばしても龍には届かない。
もう私はあなたの彼女じゃないんだなって思ったの。偽りの彼女だった。
辛かった。苦しかった。
でもあなたを憎む事は無かったの。不思議だよね。
私が悪いって思ってしまうの。
自分に魅力が無いから、振り向いてくれないんだとか、自分が弱いから駄目なんだとか。そういうことばかり考えて、自分を傷つけてた。
それでも龍の前では自然で居ようと思って、ずっと笑顔を貼り付けてた。
龍の前では強く居よう、龍の前では絶対泣かない、って決めてた。だけどさ、やっぱり弱い自分が出てきちゃうよ。
龍だって私にゲイって事隠しながら、生活して辛かったよね?
私の告白断りづらかったから……いいよって言ってくれたんだよね。
全部全部私が悪い。あなたを振り回してた私が悪い。
同居だって私が我儘言ったせいで龍を傷つけた。
ほんとにごめん……。
どれだけ謝っても切りがない。
それほど私はあなたを傷つけたと思う。
こんな弱い彼女でごめんね…。こんな醜い彼女でごめんね…。こんな我儘な彼女でごめん……。
私、龍と付き合えて良かった。ほんとに良かった。
私に幸せな時間をくれてありがとう。
もう龍とは会えなくなると思うとほんとに悲しい。
龍は私が初めて好きになった人だよ。
あなたの笑顔が大好きで、あなたの見えないところで頑張る姿が大好きで、あなたの優しいところが大好き。
私、彼女らしいことしてあげられなくてごめんね…。
あぁ、龍の彼女になれて良かった。
私、幸せものだなぁ。
今までありがとう。
大好きだよ。これからもずっと……。
さようなら、大好きな人。
優
そう書かれてあった。
俺は、手紙を読んでる間ずっと泣いていた。涙で文字が滲んで汚くなっている。
俺、全然優の気持ち気づいてあげられなかった。こんな事思ってたなんてな。
俺、最低だ。なんで優と付き合ったのか分かんねぇ。
優はずっと謝っていた。ごめんね…って。
もう謝んなよ。悪いのは俺の方だ。どれだけ優を一人にしたか、どれだけ苦しめたか……。辛いのはお前なのに。
それでも俺を庇うのかよ……。
お前のその優しさに俺は甘えてたのかもしれない。
優なら大丈夫って、ずっと思ってた。
バレたら別れればいい。って簡単に思ってた自分が情けない。
優は俺のためにずっと言わないでいてくれた。
それなのに俺、嘲笑ってただなんて。
優がそんな事するはずないのに。なんで決めつけたりしたんだよ。それで彼女をこんなにさせたんだろ。優には両親がいないから俺が守ってやんないと行けなかったのに、なんで逃げてるんだよ。
俺は、弱いよ。
お前は弱くなんかない。俺と向き合ってくれてたじゃん。
逃げないで居てくれた。それが弱いなんて間違ってる。
俺の方が弱い。お前から逃げてたんだ。
気づかれるのが嫌で。それでお前に冷たく当たって。自分の弱さをお前に押し付けてたんだぞ?
優は俺の前では一度泣かなかった。それが俺にとって嬉しかったりした。最低だよな。
優は泣くのを必死に我慢して俺の前では笑顔で居てくれた。それがどんなに辛いか……。俺だって分かるのに……。気づいてあげられなかった。
ごめん……
ほんとにごめん……。
俺、お前に謝りたい。
きっとお前は俺の事嫌いになったよな?
それでも、お前にしてきた事全部謝りたいんだ。謝って済む話しじゃ無いことぐらい分かってる。
でも、お前が笑ってる姿がもう一度見たい。
今度は作り笑いじゃなくて。
お前が心から笑ってる姿が。
そうだ。
そうか。
俺は、お前の笑顔に一目惚れしたんだ。
「なぁ……頼むから目覚めてくれよぉ……。」
涙が優の手に落ちる。
必死に優の手を握った。
触れる事が出来なかった優の手を強く。
「優……。優……。」
ここは何処?私、何してるの?
今、私は不思議な空間にいる。すべてが白い。すると突然、私の目の前に死んだ筈のお母さんが出てきた。
「お母さん……!」
「優……。」
お母さんの声を聞くと自然と涙が出てきた。
「お母さん、私死んじゃうのかな?……私は早くお母さんのところへ行きたいよ……。もうやだよ。」
「優……、まだ来ちゃ駄目よ。」
「なんでッ……!?私は……!」そう言いかけるとお母さんが私の頬を撫でこう言った。
「優には、大切な人がいるでしょう?よーく、耳を澄ませてごらん。」そう言うとお母さんは消えてしまった。
耳を澄ます?何言ってるの?
だけど、お母さんの言葉信じてみよう。そう思い耳を澄ませた。
すると、「優……。優……。」と聞こえてきた。
この声は龍だ。龍が私の名前を呼んでる。
目覚めなきゃ。
そう思い私は、現実の世界へと戻った。
「リュ…ウ……。」
「優……!?」
「私の名前呼んでくれてありがとう。」そう言い私は、ニコッと彼に笑顔を向けた。彼は泣いていた。それに私の手を握っている。
ほんとに心配してくれたんだ。彼女じゃないのに……。
そう思っていると、龍が私を抱き寄せた。
「ごめん……。ほんとごめん……!お前にどれだけ辛い思いさせたか……。俺彼氏失格だよなぁ……。」
龍はそう言って私の胸に顔を埋めた。彼の声は震えている。
泣いていたのだ。
「そんな事無いよ。私の方こそ彼女らしいことしてあげられなかった。……私龍が居てくれただけで幸せだったよ?」そう言うとニコッと笑った。
大好きな彼が私を抱き締めてくれているだけで生きてて良かったって思う。
「良かった……。優ごめんな、もう絶対お前に無理なんてさせないから。辛い思いさせない。
だからさ、もう無理に笑わないで良いよ。」
あぁ、バレてたんだな。龍の言葉を聞いた瞬間涙が出てきた。
「優。泣くなら俺の前だけにしてくれ……。絶対、離れたりしないから。……俺にこんな事言う権利はないけどさ、……もう一度、俺の傍に居てください。」
龍の目からは涙が溢れてる。
ほんとに嬉しい。私が思ってる以上に龍は暖かくて優しい。
返事は……「はいっ。」そう言うしかないよ。
ありがとう。お母さん。
私、死ななくて良かった。
こんなに幸せな事もうないよ。
私、あなたの彼女になれたかなぁ……?
幸せ過ぎて分かんないや!
Fin