見守り愛 〜ビタースイートな副社長と一目惚れの恋を成就したい〜*おまけ終了*
「…ねぇ、先輩」


声を出すとまだスマホを耳に当てていたらしい彼女が、「ん?」…と返事をしてくる。


「私…まだまだ先輩の域を超えてはいないみたいですよ」


未熟者ですね、と力無く笑って通話を終える。

紀香さんは何事かと不思議に思ったかもしれないけれど、特に折り返してまで訊いてくることもなく、呆気なく通話は流されてしまった。


私の頭の中には、忘年会場で話した大橋さんの言葉が引っ掛かっていた。

流石…と言われるほど、私は高吉君にいい事を言った覚えもなく、あの時、彼とした会話の内容は全部、臨床心理士の資格を持つ紀香さんからの受け売りに過ぎない。


それをただ忠実に守って言葉にしただけ。
だから、それで流石…と言われてしまったら烏滸がましいし、自分の力ではないと感じて、無性に気落ちしてしまう。


(この部署に配属されて五年も経つのに、未だに自分が成長してないような気がする)


こんな時、いつも『石の上にも三年よ』と言っていた従姉妹の言葉が蘇る。

三年で人間が成長出来るなら早い方で、五年経っても相変わらずな自分って、一体何なんだろう…と思うと嫌になる。


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