禁猟区のアリス
11

わたしの死因は、ギャクタイによるデキシ。

わたしの罪状は、虐待による殺害。


何度考えても、やっぱりその二つが繋がらない。


パパとママにギャクタイされて、わたしがわたしの心を殺したことを、ウサギは殺害と言っているのだろうか。

わたしの心を見透かしたように、ウサギが「ふぅん」と鼻で笑った。


紅茶のカップとは違い、ココアにはすんなり手が伸びた。じんわりとした温かさが、冷えた指先に心地良い。

湯気を一息吹いて口を付けると、心を溶かすほどの甘さが口の中に広がった。

幸せな甘さの中に、忘れていたはずの涙が一粒、こぼれ落ちた。


ママのオトモダチも、新しいパパも、カルナもわたしも、みんな大嫌いだ。


わたしはママが好きだった。ママにはわたしだけを好きでいて欲しかった。新しいパパなんていらない。

ママのハグは暖かかった。アパートのおばあちゃんがくれたココアは幸せの味がした。

あの時あの瞬間で時間が止まってしまえば良かったのに。そうしたらわたしは。


でも……。
新しいパパとケッコンした時のママは一番幸せそうだった。わたしと二人の時よりもずぅっと。


黒猫が、湯気のたった熱そうなミルクをウサギの前に置いた。ウサギは薄く微笑んでいた。

目の奥だけが、氷のように冷たく見えた。


そうだ、角砂糖。

わたしはキャニスターに手を伸ばそうとして、同じ模様の入れ物がテーブルの隅に二つ置かれていることに気がついた。

いつからだろう。わたしが目覚めてから今まで、キャニスターを触った人は誰もいない。そう、たぶん誰もいなかった。


口の中が、べたべたとやたら甘い。

「アリス。君が最後、死ぬ直前に書いた手紙は、世間のヒトたちの心を強く動かした。でもサイバンではパパもママも、君に対するシツケだったと主張した。君を愛していた、と。ママは全てをパパのせいにした。自分もパパに暴力を振るわれてたヒガイシャだ、って。……どう思う?」


どう、と聞かれても、わたしには答えることができなかった。

パパがママに暴力?わたしはそんなこと知らない。だってカルナは傷ひとつ無い、きれいな子供のままだ。ママのお腹には、新しい赤ちゃんが入っている。ママはわたしと二人だけだった時よりも、幸せそうだった。

きっとママにはパパが必要なんだ。わたしよりも。ずっと。そう、思って、いた。


「アリスの沈黙が答えだって、思ってもいいのかな?」
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