禁猟区のアリス
2
「やっと目が覚めたかい?アリス」
目の前に座った男の子が、優しげな笑顔で尋ねた。
「アリ……ス?」
「そうだよ、君はアリスだ。目覚めの気分はどう?」
わたしは困って、辺りを見回した。
建物は半分地下になっているのか、四角く切り取られた中庭に、柔らかな午後の日差しが影を作っていた。
「アリスはまだ目覚めたばかり。そっとしてあげるのが、優しさってものだわ。デリカシーのないウサギね」
不機嫌そうなウエイトレスが、私の前に紅茶を置いた。
「また、妙なアリスを拾ってきたものね」と、ウエイトレスがウサギの前に湯気のたったミルクを置いた。
「あの……。わたし…」
「なにかしら?ああ、そう言えば、まだ紅茶は嫌いだったのよね」
黒い制服の胸元に青いリボンを揺らして、ウエイトレスがそう言った。言っただけで、紅茶を下げてくれる気はないみたいだ。
「デリカシーがないのは、黒猫も同じだと思うけど」
片肘をついて、ウサギが黒猫を見上げた。黒猫の青いリボンが揺れる。
「デリカシーの前に、あたしはプロですから」
やっぱり不機嫌そうに黒猫はそう言って、テーブルを離れた。
「どうやら本当に、アリスは僕のことも覚えていないらしい」
気付くとわたしをじっと見つめていたウサギが、ポツリと言った。
わたしは曖昧な笑みを浮かべて、紅色に透き通った液体に視線を落とした。
紅茶は、嫌いだ。でもどうして黒猫は、そんなことを知っていたんだろう。
「やっと目が覚めたかい?アリス」
目の前に座った男の子が、優しげな笑顔で尋ねた。
「アリ……ス?」
「そうだよ、君はアリスだ。目覚めの気分はどう?」
わたしは困って、辺りを見回した。
建物は半分地下になっているのか、四角く切り取られた中庭に、柔らかな午後の日差しが影を作っていた。
「アリスはまだ目覚めたばかり。そっとしてあげるのが、優しさってものだわ。デリカシーのないウサギね」
不機嫌そうなウエイトレスが、私の前に紅茶を置いた。
「また、妙なアリスを拾ってきたものね」と、ウエイトレスがウサギの前に湯気のたったミルクを置いた。
「あの……。わたし…」
「なにかしら?ああ、そう言えば、まだ紅茶は嫌いだったのよね」
黒い制服の胸元に青いリボンを揺らして、ウエイトレスがそう言った。言っただけで、紅茶を下げてくれる気はないみたいだ。
「デリカシーがないのは、黒猫も同じだと思うけど」
片肘をついて、ウサギが黒猫を見上げた。黒猫の青いリボンが揺れる。
「デリカシーの前に、あたしはプロですから」
やっぱり不機嫌そうに黒猫はそう言って、テーブルを離れた。
「どうやら本当に、アリスは僕のことも覚えていないらしい」
気付くとわたしをじっと見つめていたウサギが、ポツリと言った。
わたしは曖昧な笑みを浮かべて、紅色に透き通った液体に視線を落とした。
紅茶は、嫌いだ。でもどうして黒猫は、そんなことを知っていたんだろう。