禁猟区のアリス


ママは紅茶にレモンを入れる。

カルナはミルクティー。優しくて甘い、ミルクティー。

パパは角砂糖をひとつ。


わたしにとって、紅茶は幸せな家族の象徴だ。

わたしも欲しい。わたしも欲しい。

どんなに望んでも、手に入るわけがなかったが。それでもわたしは渇望した。何度も何度も。


今、目の前で湯気をたてている紅茶は、パパが飲んでいたのと同じものだろう。ソーサーに置かれたスプーンの上に、角砂糖がひとつだけ、乗せられていた。


「アリスは僕のことも覚えていない」
興味深そうにウサギが言った。

「忘れないでって、あれほど言ったじゃないか。僕のミルクには、いつも角砂糖を3つ入れるんだって」

ウサギはテーブルの上に顔を伏せて、ミルクのカップをわたしの方へ押した。組んだ腕の隙間から、ちらりとわたしを見ている。
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