禁猟区のアリス


わたしは仕方なく、テーブルの端に置かれた陶器のキャニスターから角砂糖を取り出して、3つ、ウサギのカップへそっと落とした。


「そんなに入れたら、甘すぎると思うわ」

銀のお盆に、やたら大きなサンドイッチを乗せて、黒猫が呆れたように言った。


「わかってないのは、黒猫の方だろ。何だい、その下品なサンドイッチは。ティータイムには、薄いキュウリのサンドイッチって決まっているじゃないか」

ウサギがわざとらしくため息をついた。


「ええ。ティータイムにホットミルクなのも、どうかと思うけどね。それに、これはカフェカメリアの看板メニュー。変える気はないわ」

黒猫がサンドイッチをテーブルに置いた。

「食べたくなければ、無理することないのよ。でも、キュウリのサンドイッチなんてお断り。どうしてもなら、よそへ行ってちょうだい」


ウサギは黒猫を横目で睨んで、テーブルをコツコツと叩き、迷う仕草を繰り返してから、サンドイッチの皿をわたしの方へ押しやった。食べないことに決めたらしい。


「わたしは、アリス、なんですか?」
小さな声でおそるおそる、わたしは尋ねた。

無意味な言葉は、許されない。ママの機嫌が悪くなれば、タバコだ。

わたしは目をぎゅっと瞑った。肉の焼け焦げる臭いがした気がした。


「君は、どう思う?」
ウサギが問い返した。

わたしには、答えが分からない。でも、わからないと言えば、パパが冷たい水の中にわたしを沈める。


ウサギは、ふぅっと長く息を吐いてから、ソファーの背もたれに体を預けた。

「ここでは、みんながアリスなんだ。君も、君以外も」

「わたし、以外?」

「そう。例外はないね。もちろん、ここから出れば、君はアリスではない誰か、だ」
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