禁猟区のアリス
6
「わたし以外の、誰か?」
「いいや違う。アリス以外の誰か、さ。アリスじゃなくなった時、君が何になるのか、僕にはさっぱりわからない」
ウサギはそう言って肩をすくめた。
「わからないなんてキレイゴト。本当は興味がないんでしょう」
青いリボンを揺らした黒猫が、意地悪げに言う。失礼な!とウサギが憤慨した。
「アリスがアリスでいる間、僕の興味はアリスだけだ」
誰かがわたしに興味を向ける時、それはいつも哀れみの目だ。その目は、可哀想とわたしに語る。
でも、それだけ。
次の瞬間には何もなかったように、彼らの日常へ戻っていく。わたしを助けてくれる人なんて、誰もいない。
それが、当たり前。
スーツを着た知らないおじさんがカテイホウモンに来た日は、いつも、ママの機嫌が悪くなる。でも。
ママハイツモヤサシイヨ。魔法の呪文を唱えれば、それで終わり。
お腹が空いても我慢するのがママとのお約束。どんなに寒くても、ママのオトモダチが来ている時は、家の中に入れてもらえないのもママとのお約束。
お約束を破ったら……。
カフェ…カメリア、だったかな。店内は暖かいのに、足下からぞわりと寒さが上ってきた。
「紅茶、飲まないの?」と、ウサギが言う。
体よりサイズの大きい真っ白なパーカーは、何度そでをまくり上げてもずるずると細い腕から滑り落ち、そのたびにウサギは袖をまくった。
紅茶はまだ温かそうに、湯気がたっている。
指先までがもう氷のように冷たい。それでもわたしは、カップを手に取ることができなかった。
「君は死んだんだよ、アリス」
くるくるとホットミルクをかき混ぜながら、何でもないことのようにウサギが言った。
「わたし以外の、誰か?」
「いいや違う。アリス以外の誰か、さ。アリスじゃなくなった時、君が何になるのか、僕にはさっぱりわからない」
ウサギはそう言って肩をすくめた。
「わからないなんてキレイゴト。本当は興味がないんでしょう」
青いリボンを揺らした黒猫が、意地悪げに言う。失礼な!とウサギが憤慨した。
「アリスがアリスでいる間、僕の興味はアリスだけだ」
誰かがわたしに興味を向ける時、それはいつも哀れみの目だ。その目は、可哀想とわたしに語る。
でも、それだけ。
次の瞬間には何もなかったように、彼らの日常へ戻っていく。わたしを助けてくれる人なんて、誰もいない。
それが、当たり前。
スーツを着た知らないおじさんがカテイホウモンに来た日は、いつも、ママの機嫌が悪くなる。でも。
ママハイツモヤサシイヨ。魔法の呪文を唱えれば、それで終わり。
お腹が空いても我慢するのがママとのお約束。どんなに寒くても、ママのオトモダチが来ている時は、家の中に入れてもらえないのもママとのお約束。
お約束を破ったら……。
カフェ…カメリア、だったかな。店内は暖かいのに、足下からぞわりと寒さが上ってきた。
「紅茶、飲まないの?」と、ウサギが言う。
体よりサイズの大きい真っ白なパーカーは、何度そでをまくり上げてもずるずると細い腕から滑り落ち、そのたびにウサギは袖をまくった。
紅茶はまだ温かそうに、湯気がたっている。
指先までがもう氷のように冷たい。それでもわたしは、カップを手に取ることができなかった。
「君は死んだんだよ、アリス」
くるくるとホットミルクをかき混ぜながら、何でもないことのようにウサギが言った。