君がいればそれだけで。
疑問を浮かべながらも旅人の質問にそうだと返答すると少しだけ口許が緩んで笑ってくれたような気がした。無意識の内に喜んでいる僕がいた。たぶん、雰囲気が似ているから兄と重なってしまったのだろう。
本当、不思議な人だな。人に寄れば気味が悪いんだろうけど、鬼というだけで懐かしさを感じていた僕にとっては不思議な人で収まる物だった。

「傷、まだ痛みますか?」

「まだ少しだけ。君、名前は?」

「ヒューです」

やっぱりまだ痛むか。結構深かったもんね。でも、名前を伝えると空気が変わった。動揺しているような、困惑しているような。厚みのある空気がゆっくりと渦を巻いている。そんな空気だった。
< 57 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop