名前を呼んで、好きって言って
愛
翌朝、私は美桜と一緒に家を出た。
一緒に行きたかったというのもあるけど、昨日の紅羽さんの言葉で、怖い目に遭うのではないかと恐ろしくなって、一人でいたくなかった。
もちろん、あのことは美桜には言っていない。
言えるわけがない。
学校が楽しくなって。
友達が増えて。
美桜とも昔みたいに仲良くなれて。
好きな人だって出来て。
これから楽しいことがたくさん起こる予感がしていたのに、それを邪魔されたような気分だ。
でも、春木君たちが喧嘩をしていたのは意外だった。
春木君のあの運動神経から、喧嘩をしても勝てるようには思えない。
翠君は、そういうものをめんどくさがりそうだ。
柊斗さんは……逆に絡まれていたのかもしれない。
とにかく、信じられない。
もし喧嘩が強いのであれば、今もちょっとした噂が残っているだろうに、そういうのは聞いたことがない。
あれは、紅羽さんが少し大げさに言ったのかもしれない。
いやでも、わざわざ私を不安にさせる理由がわからない。
「秋保、顔色悪いけど大丈夫?」
分かれ道で立ち止まると、美桜が聞いてきた。
「……うん、大丈夫。じゃあね」
私の嘘笑いが気付かれてしまうことはわかっている。
だから、私は早足でそこを離れた。
「どーも、加宮秋保サン?」