名前を呼んで、好きって言って
人通りが少ないところに入ったのは、間違いだったかもしれない。
私は自分よりも大きな男の人に挟まれてしまった。
「ちょっとだけついて来てもらえますか」
胡散臭い笑顔をした男が言う。
それはとても不気味だった。
私はカバンの紐を強く握る。
「嫌って、言ったら……?」
声は震えていた。
足も動かない。
どうして昨日の今日なんだろう。
でも、紅羽さんから少し聞いていたからか、まだそこまで大きな恐怖はなかった。
「抵抗したら、抵抗できないようにするだけです」
その言葉と同時に、後ろからハンカチで口を覆われた。
そして私は気を失ってしまった。
◆
秋保の登校時間は早いから、俺も早く学校に行けば、少しでも長く秋保といられると思っていた。
でも、今日はまだ秋保は来ていなかった。
「あーもう、昨日から気分悪い!」
ドアが開いたから期待したのに、入ってきたのは翠だった。
翠はいつも以上に不機嫌だ。
「あ、翔和。ねえ聞いてくれる? 昨日あの子について行ったら、紅羽に会ったんだよね」
不機嫌の理由はそれだったか。
「あの子って、秋保か?」
「そうだよ。って、忘れてた。はい、これ見て」