名前を呼んで、好きって言って

翠は俺にスマホを見せてきた。
動画だ。
秋保が映っている。


『翠君にしか頼めないの。お願い』


動画の中の秋保が、翠に頼みごとをしている。


これは、つまらない動画だ。


「……返す」


翠は笑いながらスマホを受け取った。


「やっぱり翔和はいいね。飽きない」
「……翠は、秋保が好きなのか」


翠はいつも、俺が気付かない小さなことによく気付く。
それに賢いから、俺にはわからないことがわかっている。


だから、秋保は翠を頼ったんだろう。


「……僕、ああいうザ女子みたいな子、接し方がわからないんだよね。適当なことしたら、簡単に泣きそうだし。でも紅羽みたいに狂暴化されるのも嫌だし。本当、女の子って面倒な生き物」
「好きじゃないのか」
「うん、違うよ」


その答えに俺は安心した。


すると、スマホが鳴った。
今、翠はスマホを触っていたから、さっきの動画を嫌がらせで送ってきたのかもしれない。


本当は見たくなかったけど、一応確認する。


そこに表示されていた名前は、秋保だった。


俺は急いでメールを開く。


メッセージはなくて、動画が添付されている。
静止画を見るに、そこは倉庫のようなところだった。
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