名前を呼んで、好きって言って

『やあ、久しぶりだね、春木翔和。元気にしてるかなあ。なんて、挨拶はいっか。加宮秋保サンは預かったよ。傷付けられたくなかったら今すぐ一人であの場所に来い』


知ってる顔。
知ってる場所。


縛られた秋保。
床に転がされて、眠らされている。


間違いなく俺のせいだ。
俺のせいで、秋保がこんな目に遭っている。


「ねえ翔和、今の音声、何」


翠が聞いてくるけど、秋保を守るためには言えなかった。


「……ちょっと行ってくる」
「翔和!」


待ってて、秋保。
絶対に助けに行く。





目を開けると、そこは知らない場所だった。


「お目覚めですか、お姫さん」


胡散臭い笑顔の人だ。


「そうだ、借りた携帯返します」


彼は適当に投げたから、私のスマホの画面にひびが入った。
人の物を壊しておきながら、その人は笑っている。


「君もそうならないといいねえ」


怖い。
逃げたい。
助けて。


そう思っても、私には何もできない。


「……どうしてこんなこと……」


すると、彼から笑顔が消えた。
さっきの不気味な笑顔より真顔のほうがマシかもしれない。


「君は知らないだろうけど。春木翔和は少し前まで喧嘩負けなしの不良だった」
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