名前を呼んで、好きって言って

生憎、昨日聞いたばかりだ。


しかしまさか、春木君が喧嘩負けなしだったとは。
それだけはありえないと思っていたのに。


「俺たちもアイツに負けた。でも、いつか勝つつもりだったんだ」


男のくせに往生際が悪い。
負けたなら潔く身を引けばいいのに。


「それなのに、アイツは喧嘩をやめた。ちょうど去年の夏だ。喧嘩をやめただけじゃない。自分は喧嘩をしていたという噂を、全部潰した。広めるなと、自分のことを知っている人間を脅してまで」


彼は憎しみのこもった声で訴えると、私を見た。


「それはね、君のせいなんだよ」
「私……? でも私と春木君が出会ったのは、今年の六月だけど……」


去年の夏、私は私でいろいろあったから。
偶然会っていたと言われても覚えていないだろうけど。


でもやっぱり、春木君と会った記憶はない。


「そんなはずはない。春木翔和は去年の夏から好きな女ができて、喧嘩をすっぱりとやめたんだ。アイツの好きな人は君だろう?」


今はそうかもしれないけど、一年前はわからない。


そう素直に答えてもよかったけど、だんだん苛立ち始めている彼を刺激するようなことを言うのは危険な気がして、私は黙っておくことにした。
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