名前を呼んで、好きって言って
そんなことを言われても、できなかった。
私の目の前で春木君が殴られ、蹴られ、傷付けられていく。
血は流れ、春木君は自分の力で立てなくなっていく。
「春木君……」
「あんな姿を見て幻滅した?」
男は嬉しそうに言う。
幻滅なんてしない。
私は、春木君のかっこ悪いところを知っている。
スポーツをできると言い切ってできないところが、春木君のかっこ悪くて可愛いところだ。
今の春木君は、私を守るために痛みに堪えてくれている。
今までで一番かっこいい。
でも、これ以上春木君が殴られたりするのは、見たくなかった。
「春木君! 強いんでしょ! そんな奴ら、なんてことないんでしょ! 私なんかどうでもいいから!」
自分でもこれほど大きな声は聞いたことがなかった。
私が叫んだことで、みんなの手が止まる。
春木君は足に力が入らないのか、その場に尻もちをつくように座った。
「……どうでもよくなんか、ないよ」
周りが静かになったから、春木君の声が倉庫内に響く。
「秋保は、俺にとってこの世で一番大切な人だから。秋保を守るためにできることがあるなら、俺はなんでもやるよ」
春木君は血だらけの顔で、でも満足そうに言った。
涙が止まらなかった。