名前を呼んで、好きって言って

でも、みんな自分のことでいっぱいいっぱいなはず。
邪魔はできない。


彼が少しずつ私に近付いてくる恐怖に、黙って耐える。


「これで春木翔和の絶望に染まった顔が見れる」


もうダメだと思って目を閉じるけど、痛みがない。
目を開けると、柊斗さんが刃を素手で掴んでいた。


「なっ……」
「……翔和は手を出していない。約束が違うだろ」


柊斗さんは低い声で言うと、彼の鳩尾あたりを思いっきり蹴った。
その一撃で、男は気絶してしまった。


柊斗さんはナイフを右手に持ち変えると、私の後ろに回って紐を切ってくれた。


「ありがとう、でも、怪我」


私は混乱していた。
柊斗さんはナイフを置くと、そっと私の頭に手を置いた。


何も言わない。
でも、優しく微笑んでくれた。


たったそれだけのことなのに、私は酷く安心して、泣きたくなった。


そして柊斗さんは翠君たちの加勢に行った。


一人、また一人と倒れていく。


あの三人が喧嘩をしていたというのも、強かったというのも、本当だったんだ。


最後まで立っていた三人は、誰よりもかっこよかった。


でも、本当に一度も反撃をしなかった春木君はすぐに倒れてしまった。


「春木君!」


私は急いで春木君のところに駆け寄った。
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