名前を呼んで、好きって言って

「紅羽さんは行かないんですか?」
「……ちょっとまだ」


秋保は優しく笑う。


「紅羽さんでも緊張したりするんですね」
「私を何だと思っているんだ」
「あれ、紅羽もいる」


と、わ……


私は無意味にも秋保の背中に隠れた。
秋保のほうが背が低いから、本当に無意味だ。


「もう翔和君、ちゃんと説明したのに」
「秋保の家に行けることが嬉しくて聞いてなかった」


本当バカだ、と言いたいところだが、そうなるとしゅうも私の存在を知らなかったことにならないか。


私は恐る恐る翔和のほうを見る。


しゅうが、私を見つめていた。


ダメだ、目が合わせられない。


「紅羽が女の子してる。気持ち悪い」
「おい美桜、お前はもっとオブラートに言えないのか」


私をからかえることが楽しいのか、美桜は聞く耳を持たない。


「……くー、エプロン」


しゅうが話したことで、私はまた秋保に隠れた。
私の逃げ癖は相当なものらしい。


「紅羽さんも一緒に作ったんですよ。楽しみにしておいてください」


秋保が教えると、しゅうは小さく頷いた。


……知らなかった。
そんな動きをするようになっていたのか。


そういえば、私はずっとしゅうを見ていない。
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