名前を呼んで、好きって言って
しゅうは秋保からブラウニーを受け取ると、ソファに座って、一口食べた。
「どうですか?」
秋保が質問しても、しゅうは黙って口を動かしているだけだった。
でもその表情はとても幸せそうで、それで美味しさを表現しているようだった。
「……しゅう、美味しいなら美味しいと言っていいんだ」
こういう、言葉で表現する機会を、私はずっと奪っていたんだ。
そう思うと、本当に悪いことをしたと思う。
「くーが作ったブラウニー、美味しい」
「ほとんど秋保がやっていたがな」
……こういう可愛げのない自分は、本当に嫌いだ。
「柊斗さん。紅羽さんの話をきちんと聞いてあげてください。翔和君も紅羽さんもそうでしたが、みんな好きか嫌いかはっきりさせることにこだわりすぎていると思います」
秋保に言われ、しゅうはテーブルに皿を置いた。
「……くーの話って、何?」
こう改まれると、逆に話しにくい。
でも、せっかく秋保が舞台を整えてくれたんだ。
私のちっぽけなプライドなんて捨ててしまおう。
「……私は、本当にしゅうが私以外の人と話さなくなるなんて、思わなかったんだ。最初は嬉しかったけど、でも、どんどん表情をなくしていくしゅうを見るのが、私は怖かった。だから……逃げた」