名前を呼んで、好きって言って
彼は起き上がりながら、先生に苦情を言う。
「何を言う。俺の毒はお前専用だし、俺たちの中で最強なのはくーちゃんだろ」
くーちゃんという名前が出た瞬間、彼の顔色が変わった。
一気に血の気が引いたというか、その名前を聞きたくないというような感じだ。
拒絶反応に近いのかもしれない。
「あの……」
あまりに二人の会話が進んでいて、私は間違いなく置いていかれていた。
私は恐る恐る、声を出した。
「ああ、ごめんね、加宮ちゃん。これは俺の弟の翠」
「どーも」
まだ引きずっているのか、可愛らしい容姿には似合わない表情をしている。
「……京峰先生の弟?」
そういえば彼はここに来たとき、先生を「藍兄」と呼んでいた。
春木君が「藍ちゃん先生」と言っていたし、彼らは先生と仲がいいんだって思ってたけど、どうやら二人は本当の兄弟だったらしい。
「そ。京峰翠。正真正銘、京峰藍の弟。気軽に下の名前で呼んでくれていいよ」
「えっと……」
異性を下の名前で呼んだことなんてなくて、私は躊躇った。
「翠でも、翠君でも、翠ちゃんでも……いや、ちゃんはないな。とにかく、下の名前で呼んでくれると嬉しい。苗字呼びは好きじゃないんだ」
この強引さはどこか春木君を思い出させる。
類は友を呼ぶというやつだろうか。
なんだか微笑ましくなる。
「じゃあ……翠君で」
すると、翠君は満足そうに笑った。