名前を呼んで、好きって言って
でも、春木君がいるのなら、行ってみてもいいかもしれないと思ってる自分もいる。
「……うん」
視界の端で、春木君がしっぽを振っているのが見える。
でも今は、翠君との話を優先しなければいけないから、見なかったことにしよう。
「行きたいなら行けばいいじゃん。なんで行かないの?」
翠君には気遣いというものはないらしい。
ここまでストレートに言われると、曖昧に返すほうが怒られそうだ。
「……みんなに注目されるのが、怖くて……」
これでどうして怖いのか、と聞かれたらもう答えられない。
さすがにそこまで話すのは無理だ。
「ここにいる時間が長ければ長いほど、教室に行ったとき注目されるし、囲まれるよ。簡単に言えば、転校生みたいな感じ」
翠君が言っているのは、漫画とかドラマでよくある、転校生に興味を持つ、というやつだろう。
注目されるのも、囲まれるのも嫌だ。
もう、手遅れなのかな。
「今ならまだ間に合うんじゃない?」
私の心の中を読んだのかというほど、正確な言葉だった。
私は思わず翠君の顔を凝視する。
「いや、わかんないけど」
適当に話していたのか。
翠君の話を信じたからこそ、その一言は自分でも思った以上にショックだった。