名前を呼んで、好きって言って
「……元気そうだな」
待って……話、続けるの……?
「加宮たちが入ってくるより先にいたんだ。声かけるタイミング探してた」
そこはそっとしておいてほしかった。
というか、少しは返事をするべきだと思うのに、声がまったく出てこない。
「……楽しそうだったな」
……やめて。
これ以上は、言わないで。
「俺はお前のせいで振られて、傷付いたのに、お前は何もかも忘れたみたいに、笑っていられるんだな」
私は拳を強く握りしめた。
「最低だよ」
泣きたかった。
逃げ出したかった。
それなのに、涙は出てこないし、足は動かない。
言葉も出てこないから、私は黙って耐えることしかできなかった。
「秋保が最低なわけないだろ」
「ていうか、女の子に最低って言っちゃう君のほうが、最低じゃない?」
聞きなれた声がした。
目を開けると、翠君と春木君が私の前に立っている。
後ろには柊斗さんがいた。
「どう、して……」
「君が変な男に絡まれてるのを見つけて、走り出した翔和についてきただけ」
翠君に言われて春木君を見るけど、春木君は彼を睨みつけていた。
それは翠君の目が笑っていない笑顔よりも、柊斗さんの無言の圧力よりも怖かった。