名前を呼んで、好きって言って

あの可愛らしかった笑顔は、いつの間にか消えている。


「双子で同い年なら、余計に思うんだ」


意見というよりは、自分のことのように聞こえた。


「あんたが頑張った分だけ、この子を苦しめてたのかもしれないね」
「そんな……」


美桜は言葉を失う。


いつも、翠君の言葉には棘があるイメージだった。
言い方が悪くなってしまうが、他人を見下し、刺激しているような感じだ。


でも、今のは少しだけ違う気がした。
なんというか、翠君の心の叫びのように聞こえた。


翠君にも思うことがあるのだということはわかるけど、でも私は、その言葉で美桜を傷付けたということが許せなかった。


「翠君、勝手なこと言わないで」


たしかに一度はそれを理由に美桜を恨んだことがある。
でもあれは仕方のないことだったと思うし、あれ以外で美桜を憎んだことはない。


少しは生まれつきの能力に差があるのかもしれないと思ったことはあるけど、やっぱり、美桜が努力していたことを知っているから、どちらかというと、尊敬している。


「お前、他人の努力を否定するような最低な人間に成り下がっていたのか」


翠君が私に反論しようとしたとき、隣の席からそんな言葉が聞こえてきた。


声の主は翠君の奥にいて、翠君は誰か見ていないのに、顔色が一気に悪くなった。
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