名前を呼んで、好きって言って
そこに座っていたのは、短髪イケメンの女子高生だった。
「紅羽、来たんだ?」
「……少し立ち寄っただけだ。まさかコイツに会うとは思わなかったがな」
美桜はたしかにその人を紅羽と呼んだ。
そういえば、京峰先生が妹は紅羽といって、美桜と同じ学校に通っているって言っていた。
ということは、あのイケメンさんが翠君の双子のお姉さん……?
「コイツって?」
「そこにいる愚弟だ」
翠君は一ミリも動かない。
下唇を噛んで、何かに耐えているようにも見える。
「愚弟って」
美桜はその単語を繰り返して苦笑する。
その意味を知らないのか、と思うような反応だった。
「……え、紅羽の弟?」
少し冷静になって気付いたらしい。
美桜が翠君を見るけど、翠君は顔を上げない。
「……僕、帰る」
翠君は椅子にかけていたリュックを手にすると、席を立った。
「翠君!」
追いかけようとしたけど、翠君の足が速くて、すぐに見失ってしまった。
あんな翠君、見たことがない。
本当に双子の姉である紅羽さんのことが嫌いなんだ……
いつも、なんだかんだ翠君に守ってもらっていたのに。
翠君の異変に気付いたのに。
私は、何もできなかった。