名前を呼んで、好きって言って
女子会
「お、戻ってきた。おかえり、秋保」
店内に戻ると、紅羽さんが美桜の隣の席に移動していた。
美桜も紅羽さんも、翠君のことをまるで心配していない。
「今、瑠衣に連絡したんだ。少し喋って帰ろうよ」
瑠衣に会えるのも、おしゃべりも嬉しいけど、翠君のあの表情が頭から離れなくて、心から楽しめそうになかった。
「秋保」
紅羽さんに名前を呼ばれて、不覚にもどきっとしてしまった。
自己紹介をしていないのにどうして名前を知っているのだろうと思ったけど、ずっと隣で私たちの会話を聞いていたなら、名前を知っているのも不思議ではない。
「なんですか……?」
柊斗さんのときもそうだったけど、同級生には思えない相手には敬語になるらしい。
「アイツのことは気にしなくていい。いつものことなんだ」
「いつものことって……」
「アイツは私のことが嫌いで、会話をしても逃げる。子供みたいな奴なんだ」
そう言ってコーヒーを飲む紅羽さんは、とても大人っぽい。
同い年には思えないくらい、様になっている。
「……紅羽さんにとってはそうかもしれませんけど、私にとって、翠君はヒーローみたいな人なんです」
紅羽さんは固まってしまった。
「アイツがヒーロー? 本気で言っているのか?」