名前を呼んで、好きって言って
でも、今ここで私が嘘をつけば、無意味に紅羽さんを悲しませてしまうような気がした。
翠君と会話をしなくても、京峰先生とは話すかもしれない。
もしかしたら、春木君とも知り合いで、そこから知ってしまうかもしれない。
いつ本当のことを知るか、わからないのだ。
「柊斗さんは……今でも、誰とも話してない、です……」
「……そうか」
空気が一気に重くなる。
「ねえ、なんで二人ともそんな悲しそうな顔をするの?」
一人だけ置いて行かれたような状態の美桜が言った。
「その柊斗さん? 紅羽のわがままを今でも聞いてるってことは、まだ紅羽のことが好きってことなんじゃないの? 紅羽もその人のこと、好きなんでしょ? 両想いじゃん。違うの?」
それは思いつかなかった。
紅羽さんが苦しそうな表情をするから、変に考えすぎていたのかもしれない。
「たとえそうだとしても、私はしゅうとは付き合わないさ」
「なんで?」
紅羽さんは視線を落とす。
「……しゅうは優しくて、いたずら好きな奴だったんだ。でも、私があのわがままを言ったせいで人と関われなくなって、いたずらができなくなった。私は、しゅうを苦しめた人間だ。それなのにしゅうと幸せになりたいと思うなんて、おこがましい話だろ」