もうそばにいるのはやめました。
「好き」の5秒後
手狭なクローゼットから服を全て取り出す。
あのカーディガンもこのスカートも。
……あっ!
「これ……なつかしいなぁ」
ひらひらレースと小さなリボンをふんだんにあしらった、ピンクのワンピース。
女の子……というか少女らしい。
今わたしが持ってる、唯一のワンピース。
これ着て、円に「かわいい」ってほめてもらおうとしたんだよね。
結局言ってもらえなくて。
逆に言われたのは
『似合わねぇな』
と、冷たい一言。
あれ以来着なくなっちゃったんだ。
もったいない。
円もひどいよね。こんなにかわいいのに。
「せめて『ワンピースはかわいいな』くらい言ってくれたってよかったのにな」
円のバカ。
女心がわかってない!
――コンコン。
「入るぞ」
「へ!?」
うわさをすればなんとやら。
扉が開かれていく。
ああっ、待って!
まだこの勝負ワンピースも下着もしまってないの!!
あわててダンボールに押し込んだ拍子に、フローリングの床に足をすべらせた。
「うぎゃっ!?」
「……何やってんだ」
「いたたた……」
ドンッ!と大きな音を立てたと同時に
部屋に入ってきた、ムダに整った美形をうらめしげににらむ。
「円が返事を待たずに入ってくるのがいけないんじゃん!」
「ノックしたじゃねぇか」
「返事してないもん!」
「返事してたら転んでなかったのか?」
「たぶんね!」
「たぶんかよ……」
呆れないでよ!
ちょっとは心配してくれてもよくない?
あー、おしり痛い。
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