もうそばにいるのはやめました。


観客は感動したって伝えてくれるけれど


あのときの観客の熱に、わたしも感動したんだ。



「相松くんも寧音ちゃんの演奏を聴いて泣いてたよ」


「え!?」



知らなかった。

そもそも円、演奏を聴いててくれたんだ。


円も体育館にいたんだね。



……泣いてたってまさか。



「……右腕そうとう痛かったのかな」


「ははっ、そっちいっちゃうかー」



だ、だって、想像できないんだもん。

円が感動して泣くところ。


円は感動しても涙は出ないタイプだと思う。たぶん。


同居してたときだって泣き顔を見たことない。めずらしかったのは雷を怖がる姿くらいだ。



「寧音ちゃんは鈍感だな。この感じじゃ弟の気持ちも気づいてないんだろうな」


「……ハルくんの、気持ち?」


「寧音ちゃんも大変だね」



なぜかいたわれた。

大変ってなにが?



「先に謝っておくよ。弟が迷惑かけたらごめんね」



そしてなぜか謝られた。


え?わたしこれからハルくんになにか迷惑かけられるかもしれないの?



意味がわからずポカンとしても、ナツくんはそれ以上言及することはなかった。


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