もうそばにいるのはやめました。
想われ人
『先に謝っておくよ。弟が迷惑かけたらごめんね』
昼休みにナツくんがいたわったり謝ったりしたのって、このことを示唆してたのかな……?
チラリとリビングに座ってるハルくんを一瞥してため息をついた。
「はい、お茶」
「ひ、姫!こういうのは僕がやったのに……」
「いいの。ここはわたしの家なんだから、お客さまをもてなすのは当たり前でしょ」
ローテーブルにコップを2つ置いた。
温かいお茶から湯気が立つ。
お茶をこうして淹れるのにも慣れてきた。料理をするよりずっと簡単。
「姫……今はこんなところに住んでるんすね」
「狭いでしょ?」
「はいっす。……あ、いえ!」
「あはは。いいよ気にしないで。わたしも最初そう思ったもん」
アパートの一室。
昔の豪邸と比べたら玄関もリビングもキッチンも……どこもかしこも狭すぎる。
和風なおもむきのあるこの家は、歩くとギシギシ鳴るし、すきま風は吹くし、隣の家の生活はよく響くし、お世辞にも住みやすいとは言いがたい。
だけど、お父さんとお母さんが一緒だから。
わたしには十分なの。
「旦那さまと奥さまは……?」
「仕事だよ。夜遅くまで働いてる」
「そう……すか」
「わたしも仕事してるんだよ」
「え!?」
「近くの商店街でね。あさってもバイト」