もうそばにいるのはやめました。
彼女ってなに。
うそつき。
『俺が恋人のフリをやる』
フリなんかしないでよ。
円に助けられてもうれしくない。
「わたし、円の彼女じゃないよ」
これ以上好きにさせないで。
苦しませないで。
忘れられない人がいるくせに。
思わせぶりなことしないでよ。
「俺は……っ」
ほのかにうるんだ黒い瞳に、ぼんやりとわたしが映る。
『ごめん、寧音』
――ズキンッ。
『俺は今までどおり、お前と……!』
――ズキンッ。
ずるい。
そんな、焦がれるような目。
そんな目をしながら、吐く言葉はけっして甘くはないんでしょ?
知ってるよ。
わたしの自惚れは当てにならないことくらい。
「俺は、お前のことが……!」
「聞きたくないっ!!」
耳をふさいだ。
どうせ傷つくだけならもう勘違いしたくない。
お前のことが。
そこに続く言葉は、わたしの欲しい2文字じゃない。
円の優しさを信じちゃいけない。
形のいい唇がもう一度動く前に逃げだした。
せっかくハルくんにカンペキにしてもらった顔も髪もぐちゃぐちゃだ。
「……聞いてくれよ。俺はお前が好きなのに……っ」
走ってずいぶん遠くまで行ってしまったわたしのうしろ姿を眺めながら、ポツリと漏らした円のささやきは誰にも拾われることなく褪せていった。