もうそばにいるのはやめました。



「大丈夫じゃねぇよ」



また右手を捕まえられた。



ごつごつした大きい手。


円の、手。



弱々しく触れたところから震えが伝わってくる。



「やっと、見つけた」



傷みのない黒髪はびしょ濡れで

息は上がっていた。


それくらい捜してたんだ。



ハルくんはいなかった。


一緒に捜してたわけじゃなさそう。



「どうして……。わたしあんなに避けたのに……どうしてそこまでして追いかけてくるの?」



円にいいことなんかない。

わずらわしいだけでしょ?



「言っただろ。うぜぇくらいかまいに行くって」



言われた……けど。



『まあでも……寂しくなったら、イタ電でもしてうぜぇくらいかまいに行ってやるよ』



寂しくなったら、って条件つきだった。


……ねぇ、それじゃあ。



寂しかったの?



雷が鳴った。

円の手がビクリと揺れる。


抱きしめたい衝動を必死に抑えた。



「わたしも言ったよね?そばにいるのはやめるって」


「なら……そばにいるのをやめるのを、やめろよ」



円の手に力が強まり、右手を円のほうに引っ張られた。


不意打ちのことによろめく。

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