もうそばにいるのはやめました。


ふわりとかすめる石けんの匂い。


突然ホールドされた体がピシリと固まる。



「ま、ま、円……!?」



抱きしめられるなんてまったくの想定外!




「好きに決まってんだろバーカ」


「!!」


「あんな騒いでるひまあんならさっさとインターホン鳴らせよ。待ちくたびれただろ」


「……ご、ごめん、なさい……」




次はわたしが赤くなっちゃうよ。


甘い。
甘すぎる!

胸やけしそう。


こんな円、知らない。



あぁ好き。


1秒前よりもっと好き!



ほどかれていく腕を惜しんでいると、円が手に持ってる袋に気がついた。




「なんだよそれ」


「手土産だよ。ケーキ作ってきたの」


「寧音が?」


「もっちろん!」


「……食えんのか?」


「失礼な!ハルくんにレシピを聞いて作ったんだからおいしいはず!」




ハルくんがわたしの家を去るときにちゃっかり教えてもらったんだ。


お嬢さまのときは、誕生日ケーキはハルくんが作ってくれていた。


ハルくんお手製のケーキを上回るものはない!



「ハルくん、ね……」



なんでちょっとムッとしてるの?


そういえばレシピを聞く理由を知ったハルくんも急に機嫌をそこねたっけ。


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