もうそばにいるのはやめました。
あのときの複雑な感情とともに問題もばっちりおぼえてる。
ここの部分は復習しなくても大丈夫。
ページをめくったところから勉強していこうっと。
卓上いっぱいに広げられた教科書とノート。
お互いの息づかい、シャーペンを走らせる音。
同居してたときの勉強会はリビングでだった。
『円、この問題って……』
『あー、俺もそこ悩んでた』
『このXってこうなる?それとも引っかけ?』
『俺も最初そうなったけど、これにかけたら……』
『わあ!すごい!円、天才!?』
テーブルには余裕があって。
この部屋よりも広くて。
同居人としての距離感は落ち着くけれど、じれったかった。
『大げさだっつの』
『いてっ!』
『痛がるのも大げさだな』
『……天才な円さま、こっちの問題も教えてください』
『はいはい』
丸めた教科書で頭を軽くはたいて、優しく笑う円をもっと近くに感じたかった。
片思いしてたあのころより
今のほうがだんぜん距離が近い。
今朝から心臓が落ち着かないのは、“彼氏彼女”に慣れてないせい。
でもね
このむずがゆさがいとしいの。
……円はどうなのかな。
わたしみたいに内心どぎまぎしてたりする?