もうそばにいるのはやめました。
ほんのちょっと眼を持ち上げて正面をうかがう。
まつ毛長い。
きれいな指。
ノートに書きつづっていく字がすごく上手。
こんなにも近くから円を観察するのはいつ振りだろう。
いつ見てもかっこいい。
夢の中の王子さまよりずっとずっとかっこいい。
こっちの円が夢だったらどうしよう。
「手止まってるぞ」
「目が合った!夢じゃないかも!」
「はあ?」
なに言ってんだこいつって目してる。
だってだって最近いいことばっかりだから。
円と両思いになれてデートできて。
それらが全部夢で、起きたらまたそばにいるのをやめなきゃいけなくなったら……メンタルがやられちゃうよ。
「夢じゃない……よね?」
心配になっていたら円にほっぺをつねられた。
「いひゃいいひゃい……!」
「夢だったか?」
「……ちがいました」
「だろうな」
相も変わらず冷たい円は、なにごともなかったように再び問題を解き始めた。
「……うん、やっぱりこれは夢じゃない」
「まだ言ってんのか?」
「なぜかって?それはね!」
「……聞いてねぇし」
「この服着てても、円が『似合わねぇな』って言わないから。だから夢じゃない。これはまぎれもなく現実!」