もうそばにいるのはやめました。
妙な沈黙が流れた。
あっ、あっちから電話切りづらいとか!?
空気読んで読んで通話終了したほうがいい!?
『……あ、あの、』
むだに焦っていると、受話器の向こう側からためらいがちに低音が届いた。
『息子は……元気、でしょうか?』
「円ですか?はい、元気ですよ!今日も一緒に勉強しました!」
『そうですか……』
安堵が伝わってくる。
「相松さん、クリスマスイブは帰ってくるんですか?」
『クリスマスイブ……ですか?今のところは仕事ですね』
他愛ない会話の延長線。
ふとモヤモヤした。
『父さんはそれまで以上に仕事にぼっとうするようになった。竜宝のお嬢さまばっかかまって、俺のことはほったらかしだった』
円の影を帯びた横顔が。
『特に予定ねぇけど』
平然とした声音が。
『ん。楽しみ』
あの優しさが、今になって心臓をえぐる。
予定がないのは。
楽しみなのは。
はずんでいた赤い気持ちが沈んでいく。
家族や友だちにお祝いされて当たり前だったわたしとはちがう。
円の当たり前は、ずっと、独り。
「相松さん!」
『は、はい。なんでしょう』
「お願いがあるんですが!」
円の苦しみを少しでも取り除きたい。
年に一度の特別な日に世界で一番幸せになるように。