もうそばにいるのはやめました。


商店街をテキトーにぶらぶらし、時間をつぶした。


寧音のバイト先である楽器店でバイオリンを眺めていると、寧音から『お待たせしました!』とメッセージが届いた。



待ち時間はやけに長く感じたのに、家路はいように短く感じる。

足取りも軽い。


あー、らしくなく浮かれてるな、俺。



マンションの6階。
一番奥の扉の前で深呼吸をしてから取っ手に触れた。



「た、ただいま……」



いい匂いがする。


……あれ?



玄関にあった靴は、どう見ても女物ではなく男物。


俺のよりサイズが大きい。



なんで。

……まさか。


期待が不穏に塗り替わる。


ありえない。
そんなはずがない。


そう自己暗示しながらも早足でリビングに移動する。



リビングはかわいらしく飾り立てられていた。


たまにこげがついてる物もあるがおいしそうな料理、真ん中にはケーキが並ぶテーブル。



そこに座っていたのは

寧音じゃなくて。



「なんで……っ」



口は驚きを示すが、心の中では「やっぱり」とふに落ちていた。



「久し振りだな、円」


「なんで、父さんが、いんだよ……」



いやに歯切れが悪くなってしまった。


思ってる以上に動揺してる。


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