もうそばにいるのはやめました。
『冷たくされた分、優しくもされたから』
『え……?』
『だからいいの。わたし別に怒ってないし、嫌ってもないよ。謝ってほしくもない。逆にわたしが感謝しなきゃいけないくらいだよ!』
あのバカ。
お人好し。
優しいのは寧音のほうだ。
優しすぎるんだ。
寧音のわがままは、わがままじゃない。
いつだって自分より相手を……俺を想ってる。
あの料理とケーキもきっと俺のために、心から俺の幸せをいのって、手間ひまかけて作ってくれたんだろう。
かっとうしながらもゆっくりテーブルのほうに近づいていく。
父さんの向かい側に腰を下ろした。
「円……」
「父さんに言われたからじゃねぇから。寧音の気持ちをむだにしたくなかったんだ」
「ああ、わかってる」
テーブルの上は料理で埋めつくされてる。
あいつの得意なオムライス、サラダにフルーツポンチ、それからチキンとグラタン、コーンスープ。
ケーキはこの前のロールケーキを進化させた、ブッシュドノエル。
これだけの料理をあいつ一人で……。
『ぎゃー!指……指がああ!!』
『ちょっと切っただけだろうが』
『血が止まらないよおお!!』
『うろたえすぎだ』
『このまま出血多量で死……』
『そんくらいで死ぬかボケ!』
包丁を使ったことがなかったあいつが、よくこんなに作れたな。
指に絆創膏を貼ってやったのがなつかしい。