もうそばにいるのはやめました。


隠れて練習していたんだろうな。

何回も失敗して、そのたびに努力して。


あいつらしい。


昼食にしては量が多い気がするが。



「……いただきます」



スプーンでオムライスをすくった。


この卵、半熟すぎないか?


微笑しながら食べる。

うん、うまい。


寧音と食べたらもっとうまく感じた。絶対。



「誕生日おめでとう、円」



二口目をよくそしゃくせずにごくんと飲み込んでしまった。




「もう17か……」


「……俺の、」


「ん?」


「俺の誕生日、忘れてると思ってた」


「忘れるわけないだろ」




おぼえてたのか?

寧音が教えたんじゃなくて?



「だったらなんで、母さんが死んでから祝ってくれなくなったんだよ」



あぁこれじゃあ、ガキがすねてるみたいだ。


怒ってるわけじゃない。

責めてるんだ。



母さんが亡くなってから、俺はバイオリンのコンクールに参加する気力を失い、父さんは仕事に明け暮れた。


家にもほとんど帰ってこなくなった父さんに、初めはうざいくらい話しかけていた。



『あ、あのね、父さん!母さんの好きだった曲を……』

『やめてくれ』

『……え?』

『あいつの話はするな』



どうして叱られたのかわからなかった。

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