もうそばにいるのはやめました。


ねぇ、円。

円はわたしのこと……好き?



目の前の眼がまん丸に瞠られた。


右へ左へ泳ぎ、ずるずる下に落ちていく。



「……お、れ……っ」



ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ。

心拍数と合わさった5秒後。


形のいい唇が浅く息を吸った。



「ごめん」



ゴメン……ごめん……って。

あぁ、そうか。


……そっかぁ……。



熱を持った期待をボロボロに砕かれた。


たったの3文字。

「好き」より1文字多いだけ。


それだけなのにこんなにダメージくらってる。



自惚れは自惚れのままだった。


自意識過剰だったね。



円がくれた優しさは、特別なものじゃなかった。



「忘れられない人がいるんだ」



知らなかった。

わたし、円のこと、全然知らないみたい。



もしかしたら円もわたしのこと好きかも


って何度も妄想してたのがバカみたいだね。



「そう……なんだ」


「ごめん、寧音」



ずるい。

最後の最後で名前を呼ぶなんて。


ありがとう。
これからも仲良くしてね!

せめてそう言って笑顔で終わりたかったのにできなくなったじゃんか。


どうしてくれるの。



「寧音、俺……」


「わっ、わたし、あとは1人で片付けるよ!手伝ってくれてありがと!」


「え、ちょ、」



円の背中を押して、強引に追い出す。



――バタン。


閉めた扉におでこをつけた。

涙がひとつ、こぼれる。



「……わたし、そっけないなぁ」



出会った当初の円みたい。


今日で”さよなら”なのに。

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