もうそばにいるのはやめました。
見つめ合いが数秒続くと、じょじょに円の顔が近寄ってきた。
え?え!?
昨日のキスを想起する。
ま、ま、まさか……!?
こんなところで!?
思わず目を固くつむる。
当たったのは唇じゃなくて……おでこ。
「……へ?」
「熱はねぇみたいだな」
「ね、つ……??」
「なんか元気なかったから」
キスじゃなかった!!
心配してくれただけだった!!
勘違いもはなはだしい!
穴があったら入りたい……。
「げ、元気だよ!」
「顔赤いけど」
「こっ……これは、その……ちがくて……!」
両手で顔面を覆いながらあたふたすれば、円はいたずらっ子みたいに双眼を三日月型にする。
「なにか期待した?」
「っ!!」
「わかりやす」
「し、し、してないし!」
「否定遅ぇよ」
クツクツ喉を鳴らして笑われた。
わたしの前でだけ見せる特別な表情。
クラスメイトの女の子たちが「きゃー!」「かっこいい!」「かわいい!」ってひそかにざわついてる。
うれしくて、独り占めしたくもなって。
……なのにどうしてだろうね。
どんどん熱が引いていく。
「まあ元気ならよかった。俺ちょっと係の仕事行ってくるわ」
クセの激しい赤茶の髪をひと撫でされる。
なごり惜しげに手が離れた。
武田くんに声をかけた円は、2人で教室をあとにする。