もうそばにいるのはやめました。
ひとつ屋根の下
最後のダンボールを運び終えた。
ぐっと伸びをして、ひだまりに包まれた部屋を見渡す。
今日からここがわたしの新しい家。
きれいで広くてすてきな部屋。
頑張って選んだかいがあった。
親元を離れて暮らすのは2回目。
今回はやむを得ない事情じゃなくてわたしの意思。
お父さんとお母さんは始めは心配していたけれど、わたしの気持ちを尊重してくれた。
おもむろにバイオリンの入ったシックなケースをなぞる。
バイオリニストだったお母さんがずっと大事にしてきた宝物。
高校卒業と大学入学のお祝いにプレゼントしてくれた。
ありがとう、お母さん。
お父さんも背中を押してくれてありがとう。
このバイオリンと一緒に頑張るよ。
――トントン。
軽快なノック音に扉を開ける。
「これ寧音のだろ?俺んとこに混ざってたぞ」
「わっ、ほんとだ!ありがとう!」
円が持ってきてくれたダンボールを受け取ろうとしたら、部屋の中まで運んでくれた。
そのダンボールの中には、高校を卒業するまで働いていた楽器店の店長からもらったバイオリンに関する本や楽譜やCDがたくさん入ってる。
……から、重いよね。
わざわざありがとう。助かります。